シンクロ率120%!――風邪も転倒も同時発生!?グレースフォース同時ダウン事件
それは、あまりにも唐突だった。
午前9時03分。
ヒロ室に入ってきた杉山ひかりが、小さくくしゃみをした。
「くしゅん……」
同時刻。
千葉からオンライン接続していた館山みのりも。
「……くしゅん」
会議室が静まり返る。
美月が顔を上げる。
「今、同時やな?」
彩香が眉をひそめる。
「偶然やろ」
だが、その5分後。
ひかりが鼻をすする。
みのりも同時に鼻をすする。
さらに10分後。
ひかりが「ちょっと寒いかも」と言った瞬間。
画面越しのみのりも「……私も」と言った。
ヒロ室、ざわつく。
隼人補佐官が冷静に言う。
「これは、ただの風邪だ」
だが、ただの風邪ではなかった。
正午。
ひかり、体温37.8度。
千葉の自宅で測ったみのり、37.8度。
小数点まで一致。
美月が絶叫する。
「なんでや!」
その日の午後。
ひかりが資料を取りに立ち上がり、椅子の脚につまずく。
「わっ」
同時刻、千葉。
みのりが自宅の机の脚につまずく。
「……あ」
ヒロ室、完全に静止。
麗奈がぽつりと。
「怖……」
さらに翌日。
二人とも喉が痛い。
二人とも同じ時間に眠くなる。
二人とも同じ時間に目が覚める。
LINEにはこう書かれていた。
ひかり「今、頭痛い」
みのり「今、送ろうと思ってた」
0.3秒差。
既読速度も同時。
美月が頭を抱える。
「双子かお前ら!」
そこへ現れたのが、
空前絶後の美人双子姉妹――迫田澄香・澪香。
澄香が腕を組む。
「私たちでも、ここまで同時にはならないわよ?」
澪香も真顔。
「シンクロ率、私たち超えてる」
ヒロ室騒然。
「戦隊ヒロインプロジェクト、双子二組説」
「いや、もう一組増えてる」
ひかりは布団にくるまりながら言う。
「みのり、あったかくしてる?」
みのりも同時刻に布団にくるまりながら。
「ひかりこそ」
二人とも同じ柄のパジャマ。
偶然なのか必然なのか。
隼人補佐官がメモを取る。
「症状発現タイミング完全一致。これは医学的に……」
彩香が遮る。
「愛やろ」
みのりが小さく笑う。
「たまたまだよ」
ひかりも微笑む。
「うん、たまたま」
だが、その日の夕方。
二人とも同時に薬を飲み、
同時に「にがい」と言った。
ヒロ室、崩壊。
美月「もうええわ!」
翌日、二人は回復傾向。
だが事件は終わらない。
イベントリハーサルで、ひかりが一歩踏み出すタイミングと、
みのりが千葉で自主練するステップのタイミングが完全一致。
動画を見比べた澄香が言う。
「これ編集じゃない?」
澪香「リアルタイム」
双子が敗北宣言。
「負けたわ」
「完全に負けた」
ヒロ室、拍手。
美月が叫ぶ。
「もう双子名乗れへんやん!」
その夜、ひかりがふと送る。
「今日、ちょっと寂しかった」
みのりから即返信。
「私も」
既読同時。
送信同時。
ひかり「明日会える?」
みのり「明日会える」
0秒差。
麗奈が横で見て呟く。
「通信回線より早い」
彩香が腕を組む。
「これはもう生体同期や」
隼人補佐官が総括する。
「科学的説明は後回しだ。だが一つ言える」
全員が身を乗り出す。
「二人は同じ周波数で生きている」
翌日、久しぶりに対面。
顔を合わせた瞬間。
「くしゅん」
同時。
全員総ツッコミ。
「まだ治ってへんやん!」
ひかりが笑う。
「うつした?」
みのりも笑う。
「最初から同時だったよ」
澄香が肩をすくめる。
「私たち、努力で揃えてるのよ?」
澪香が頷く。
「この二人は無意識」
ヒロ室、結論。
「双子は二組いる」
美月が指をさす。
「いや三組や。心の双子や」
その日の最後。
二人は並んで座る。
距離ゼロ。
呼吸のリズムもほぼ同じ。
隼人補佐官がぼそり。
「心拍も測るか?」
全員が笑う。
だがひかりとみのりは、ただ穏やかだ。
ひかり「なんでだろうね」
みのり「一緒にいる時間が長いから?」
ひかり「離れてるけどね」
みのり「でも、つながってる」
その瞬間、
ヒロ室の誰もが思った。
風邪も転倒も体温も。
偶然の範囲を軽々と越えている。
だが本人たちは至って普通。
「シンクロ?」
「意識してないよ」
双子姉妹すら驚く異常な一致率。
戦隊ヒロインプロジェクトに双子は二組。
いや――
心でつながる二人が、
最強の“見えない双子”なのかもしれない。
ヒロ室では今も言われている。
「次は何が同時に起きるんやろな」
そしてその瞬間。
ひかりとみのりが同時に言った。
「お腹すいた」
完全一致。
もう誰も驚かない。




