嫉妬?なにそれおいしいの?――グレースフォース、無敵すぎる信頼宣言
ヒロ室には、ときどき妙な緊張が走る瞬間がある。
それは戦闘でも会議でもない。
グレースフォースが、やけに落ち着き払っているときだ。
駿河の良心・杉山ひかり。
千葉の叡智・館山みのり。
二人は今日も仲良く並んで座っている。
距離はゼロセンチ。
だが表情は穏やかそのもの。
きっかけは、ほんの冗談だった。
美月がひかりの肩に腕を回し、にやにやしながら言った。
「ひかり〜、今度うちと二人でイベント回らへん?みのり抜きで」
周囲が「おお?」とざわつく。
普通なら、ほんの少し空気がピリッとする。
だが、ひかりはにこりと笑った。
「いいよ。美月ちゃん楽しいし」
みのりも微笑む。
「うん。美月、ひかりをよろしく」
美月「え?」
空気が逆に止まる。
彩香が腕を組む。
「おい……普通そこは何かあるやろ」
だが、ない。
その日の夕方、今度は逆。
みのりが柏木理世と政策討論を始め、二人でカフェに消えた。
理世は知的な微笑みで言う。
「館山さん、あなたと話すと脳が刺激されるわ」
その様子を見ていたひかり。
泣き虫ひかりが。
……微動だにしない。
にこにこしている。
「理世さんとみのり、話合うよね。よかった」
麗奈が思わず耳打ちする。
「ひかり……大丈夫なん?」
ひかりは首を傾げる。
「なにが?」
その夜、ヒロ室でちょっとした検証会が開かれた。
題して――
「グレースフォースは本当に嫉妬しないのか」。
隼人補佐官が仕切る。
「ではまず、仮定だ。みのりが他のヒロインと二人きりで長時間会っていたら?」
ひかり、即答。
「楽しそうでよかったなって思う」
みのり、静かに頷く。
「ひかりが他の子と仲良くしていても、安心する」
ヒロイン一同、ざわっ。
美月「なんでや!」
彩香「おかしいやろ!」
みのりは理知的な口調で続ける。
「嫉妬は、不安の裏返し。私はひかりを信頼してる」
ひかりも負けじと。
「うん。みのりは最後は私のところに戻ってくるから」
場が凍る。
麗奈「今なんて?」
ひかりはきょとんとする。
「だって、戻ってくるよね?」
みのりは真顔で頷く。
「当然」
美月が机を叩く。
「何その“当然”!」
彩香「自信の塊か!」
隼人補佐官が咳払いする。
「では逆に問おう。もし戻ってこなかったら?」
みのり、0.5秒で回答。
「あり得ない」
ひかりも即答。
「うん、ない」
即断即決。
迷いゼロ。
澪が小声で呟く。
「怖……」
理世が冷静に分析する。
「これは依存ではない。絶対的信頼……あるいは運命論ね」
美月が頭を抱える。
「なんでそんな達観しとんねん二十歳そこそこで!」
そのとき、ひかりがぽつりと言う。
「嫉妬って、相手を信用してないみたいで嫌だなって思うの」
みのりが柔らかく続ける。
「ひかりは自由でいてほしい」
ひかり「みのりも」
みのり「でも」
ひかり「でも?」
みのりは少しだけ口元を上げる。
「最後は隣にいるでしょ」
ひかり、照れもせずに頷く。
「うん」
ヒロ室全体、総ツッコミ。
「それが怖いんや!!」
さらに追い打ち。
数日後、みのりがイベント帰りに理世と二人で夜景を見に行ったという情報が入る。
ひかりは?
静岡で普通に夕飯を食べている。
LINEも穏やか。
「夜景きれい?」
「うん。でも星の方がきれい」
「そっか。じゃあ帰っておいで」
「うん」
美月が横から覗き込む。
「それでええんか?」
ひかりは穏やかに言う。
「だって、みのりは私のホームだから」
美月「ホーム?」
ひかり「アウェーで何しても、最後はホームに帰るでしょ?」
その夜、ヒロ室のグループチャットは騒然。
「嫉妬ゼロ宣言、逆に怖い」
「信頼が重すぎる」
「無敵すぎる」
そして翌日。
二人が並んで現れた。
距離ゼロ。
空気安定。
まるで何もなかったかのように。
みのりが淡々と報告する。
「昨日は理世と国際情勢を語った」
ひかりが笑う。
「お疲れさま」
みのり「ただいま」
ひかり「おかえり」
麗奈が小声で言う。
「……熟年夫婦やん」
彩香がため息をつく。
「嫉妬せえへんって言いながら、帰る場所は固定されとる」
隼人補佐官がまとめる。
「つまりだな。嫉妬がないんじゃない。揺るがない前提がある」
美月が腕を組む。
「最強やな」
二人は今日も穏やかだ。
社交的。
友人多数。
誰とでも仲良し。
それでも、最後に並ぶのは必ず二人。
嫉妬ゼロ。
疑念ゼロ。
迷いゼロ。
その代わりにあるのは、
なぜか微動だにしない絶対的な信頼。
ヒロ室の全員が思っている。
「喧嘩一回ぐらいせえや」
だが、二人は今日も笑う。
「嫉妬?」
「しないよ」
「だって」
「最後は隣にいるから」
その笑顔が、
なにより一番、
ちょっとだけ怖いのだった。




