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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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543/695

解読不能。グレースフォース暗号事件簿 ――ヒロ室、知的百合に敗北する

ヒロ室の控室は今日も騒がしい。


美月と彩香がカレーは甘口か中辛かで論争し、麗奈が「それよりナン派はどうなん?」と余計な火種を投げ、隼人補佐官は「会議前なんだから静かに」と言いながらあたりM田のクラッカーを三枚確保している。


その一角だけ、空気が違う。


駿河の良心・杉山ひかりと、千葉の叡智・館山みのり。


グレースフォース。


二人は並んで座り、同じタブレットを覗き込み、ほとんど声量を変えずに会話している。


「今日は南東寄りだね」


ひかりが柔らかく言う。


みのりが即答する。


「偏西風の蛇行、収束傾向」


美月「……何の話や」


彩香「天気予報か?」


しかし二人は続ける。


「等圧線、きれい」


「高気圧、安定」


「視程、良好」


麗奈「会話しとるんか、それ?」


実はこれ、暗号だ。


「南東寄り」=今日は少し緊張している

「収束傾向」=でもあなたといると落ち着く

「高気圧」=安心してる

「視程良好」=ちゃんと見えてるよ


他のヒロインは一切わからない。


ヒロ室ミーティングスペースでも同じだった。


真帆が各省庁と電話でやり合い、琴音がコピー用紙を抱えて疾走している横で、グレースフォースは静かに囁く。


「潮位どう?」


「平常。でも夕方は満ちる」


隼人補佐官「満ちるって何がだ」


みのり「……いえ、感情です」


ひかりが微笑む。


隣で水無瀬澪が小声で言う。


「なんか文学部のゼミみたい」


違う。

これは完全に二人だけの世界だ。


さらに厄介なのは、会話の速度。


ひかり「今日は富士がきれい」


みのり「空気乾燥度、低」


ひかり「うん、透明」


みのり「見通し、未来」


完全に詩だ。


しかも論理的。


国立大の国際教養学部同士。

語彙の密度が異常。


その様子を、少し離れた場所から見つめる女がいる。


港区女子にして孤高の理性派、柏木理世。


理世は腕を組み、分析する。


「彼女たちは、地理的メタファーを感情表現に転用している……面白いわね」


そして静かに近づく。


「その“南東寄り”というのは、地政学的な含意を含んでいるのかしら?」


ひかりとみのり、同時に首をかしげる。


「いえ、感情です」


「純粋に感情です」


理世「……そう」


割って入ろうとしたが、距離が近すぎる。


物理的にも精神的にも。


二人の椅子の間はゼロセンチ。

タブレットも半分ずつではなく、完全共有。


理世は一瞬ためらい、そして悟る。


「これは……外部から侵入できる領域ではないわね」


静かに撤退。


その背中を見て美月が囁く。


「港区女子、敗北やな」


一方、当の二人はまったく気にしていない。


「今日、空澄んでるね」


「うん。視界、無限」


ひかりが少しだけ声を落とす。


「でも、たまに霧も必要だよね」


みのりが即答する。


「霧は近距離を強調するから」


他のヒロイン達、完全沈黙。


麗奈「何その高等百合」


彩香「もう哲学やん」


美月「気持ち悪いぐらい通じ合っとる」


そして決定的事件が起きる。


ヒロ室のWi-Fiが一瞬切れた。


他のヒロインは「えー!」と騒ぐ。


だが、グレースフォースは平然。


「回線、遮断」


「でも内部通信、正常」


二人は微笑み合う。


みのり「帯域は有限でも」


ひかり「共鳴は無限」


隼人補佐官、思わず呟く。


「俺たちがWi-Fiに依存してる間に、あの二人はBluetoothどころか量子通信だな」


ヒロ室、爆笑。


だが本人たちは真顔。


そして最後にひかりが言う。


「今日の気圧、ちょうどいいね」


みのりが答える。


「うん。あなたといるから」


美月が机を叩く。


「もうええわ!通訳つけぇ!」


控室は再び騒がしくなる。


だがその中心で、

二人は静かに、深く、同じ周波数で笑っている。


解読不能。

侵入不可。

しかしどこか上品で、理性的で、妙に美しい。


ヒロ室の誰もが思っている。


「気持ち悪いぐらい仲ええな」


そして同時に。


「……ちょっと羨ましいわ」


グレースフォース。

今日も暗号は解読不能のまま、

ヒロ室の空気をひっそりと支配していた。

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