ひかり号で去るひかり、ホームで泣きかけるみのり~二週間が永遠に感じる件~
戦隊ヒロイン界きっての熟年おしどり夫婦――もとい、百合ユニット「グレースフォース」に、未曾有の危機が訪れた。
原因はシンプル。
大学の試験期間とイベントスケジュールの地獄的バッティング。
結果――
二週間、会えない。
「たった十四日やろ?」と美月は言った。
「十四日もだよ」とみのりは真顔で返した。
品川駅、新幹線ホーム。
駿河の良心・杉山ひかりは、キャリーケースを引きながら東海道新幹線「ひかり号」に乗り込もうとしていた。
その光景を、千葉の叡智・館山みのりが、まるで戦場へ恋人を送り出すような顔で見つめている。
「試験、頑張ってね」
「みのりもイベント、体調気をつけて」
すでに距離感がおかしい。
周囲の乗客がチラチラ見る。
ひかりが乗り込む直前、みのりが言った。
「毎日、最低五回は連絡するよ」
「もちろん」
堅い握手。
いや、ちょっと長い。
新幹線のドアが閉まる。
ひかりが窓越しに手を振る。
みのり、ホームで小さくうなずく。
その姿があまりに感動的だったため、後日ヒロ室ではこう語られた。
「なんかさ、あれ映画のラストシーンみたいやったな」
「息子を戦地に送り出す未亡人みたいやった」
「未亡人言うなや」
当のみのりは真顔で言う。
「ひかり号で帰るひかりを見送る私、ちょっと運命感じた」
美月が机を叩く。
「やかましいわ!」
――そして、会えない二週間が始まった。
みのりは千葉でイベントと試験勉強。
ふと空を見上げる。
「この空、静岡までつながってる」
ヒロイン達「また始まった」
一方、静岡。
ひかりは海を眺める。
「この駿河湾の向こう、東京湾、房総半島の付け根にみのりがいる」
周囲の静岡市民、誰もそんな壮大な地理ロマンは考えていない。
二人のメッセージ頻度は増えた。
「おはよう」
「おはよう」
「今日の講義どう?」
「統計学むずかしい」
「無理しないでね」
「みのりも」
一日五回どころではない。
十回。
十二回。
ヒロ室でみのりの端末が鳴り続ける。
美月が呆れる。
「これもう通信費で国家予算削っとるやろ」
ある日、通信が一瞬不安定になる。
みのりの表情が固まる。
「……既読がつかない」
麗奈が言う。
「数分やで?」
みのり、完全に動揺。
「何かあったのかもしれない」
「電波や電波!」
五分後、返信が来る。
『ごめん、トンネルだった』
みのり、机を叩いて歓喜。
「生きてた!」
ヒロイン達「当たり前やろ」
静岡でも同様。
ひかりが夜、ベランダに出て空を見る。
「みのり、今ごろ同じ星見てるかな」
みのりはその頃、千葉でコンビニの前に立ちながら同じことを考えていた。
「ひかり、寒くないかな」
二人とも、地理的距離をロマンで埋める天才。
だが二週間目に入る頃、みのりはポツリと言った。
「早く会いたい」
その声は、いつもの理知的なトーンではない。
ヒロイン達が一瞬黙る。
美月がボソッと。
「……ほんまにガチやな」
そして二週間後。
再び品川駅。
今度は静岡から上京するひかりを、みのりが待つ。
改札から出てきたひかりを見た瞬間、みのりの顔が一気に柔らぐ。
走るわけでもなく、ただ早足。
それでも空気が甘い。
「おかえり」
「ただいま」
たったそれだけで、周囲の湿度が上がる。
麗奈が遠くから言う。
「二週間でこれかい」
美月がため息。
「二ヶ月離したらどうなるんや」
ひかりが小さく笑う。
「二週間、長かったね」
みのりが頷く。
「うん。でも」
「でも?」
「空と海があったから」
完全にポエム。
ヒロイン達、拍手。
「はいはい、次行くで!」
こうしてグレースフォースは再結成。
距離はあっても、絆は揺るがない。
二週間会えなかっただけで、この騒ぎ。
もし一ヶ月だったら。
ヒロ室はきっと、緊急対策本部を設置していただろう。
百合とは、国家レベルのエネルギーである。




