泣くなひかり!怒れみのり!播州の烈火が沈黙した日
戦隊ヒロイン訓練場。
今日も空気はピリッと張り詰めていた。
戦闘訓練――それは、華やかなステージとは違う、汗と泥と根性の世界。
そしてその中心にいるのが、播州の烈火・西川彩香。
ストイック。
妥協ゼロ。
そして――言葉が怖い。
ひかりは今日も苦戦していた。
「ひかり、踏み込みが甘い!もう一回!」
彩香の声が飛ぶ。
「は、はいっ……!」
ひかりは必死に動く。だが、どうしても一瞬遅れる。
その瞬間だった。
彩香の播州弁が炸裂する。
「何しとんねん!そないなフワフワした動きで守れる思とるんか!?甘いねん!甘すぎるわ!!」
普段から少し迫力のある播州弁。
だが今日は訓練モード。
もはやヤクザ映画のクライマックス。
ひかりの目がうるうるし始める。
「ご、ごめんなさい……」
彩香に悪気はない。
本気で強くなってほしいだけ。
しかし、ひかりは戦闘が苦手。
そして何より、感受性が強い。
「うぅ……」
涙、寸前。
その瞬間。
空気が変わった。
みのりが、ゆっくりと前に出る。
「彩香さん」
静かな声。だが温度は高い。
「今の言い方は、少し強すぎませんか?」
周囲が凍る。
美月が小声で言う。
「おい……みのりん、行ったで……」
彩香が振り向く。
「は? 別に普通やろ」
みのりの目が真っ直ぐになる。
「ひかりは、あなたに怒鳴られるためにここにいるわけじゃありません」
理知的。だが情熱的。
「彼女は努力してます。誰よりも真面目に」
ひかりが涙目でみのりを見る。
「みのり……」
みのりは続ける。
「厳しさは必要です。でも、怖さは必要ないと思います」
ヒロイン達、ざわつく。
普段は冷静な千葉の叡智が、完全にスイッチオン。
彩香も一瞬たじろぐ。
「……いや、別に怖がらせるつもりやない」
みのりが一歩踏み出す。
「でも、泣きそうです」
即答。
美月、吹き出すのを必死で堪える。
「うわ……完全に彼氏やん」
彩香が珍しく視線を逸らす。
「……悪かったな」
え?
周囲、ざわっ。
播州の烈火が。
謝った。
麗奈が小声で言う。
「歴史的瞬間かも」
ひかりはとうとう涙をこぼす。
「みのりぃ……」
みのりは優しく抱き寄せる。
「大丈夫。ひかりはちゃんとできてる」
完全に本物カップル。
彩香が腕を組み直す。
「ほな、やり直そ。今度は優しめに言うたる」
播州弁、ややマイルド。
「踏み込み、もうちょいだけ深うしてみ? いけるやろ」
ひかり、こくんと頷く。
「……はい!」
再開。
今度は成功。
みのりが拍手する。
「ほら、できた」
ひかりが小さく笑う。
「みのりが見ててくれたから」
彩香が苦笑。
「なんやそれ」
周囲、爆笑。
美月が大声で叫ぶ。
「もう結婚せえや!」
彩香がツッコミ。
「訓練やぞここ!」
だがその日のヒロ室では、話題は一つ。
“播州の烈火を沈黙させた千葉の叡智”。
隼人補佐官が真面目な顔で言う。
「戦術的に見ても、みのりの説得力は異常」
真帆さんが頷く。
「愛は最強の交渉術ですね」
ひかりはみのりの肩にもたれながら言う。
「みのりが怒ってくれたの、嬉しかった」
みのりは照れながら答える。
「怒ってない。ただ、守っただけ」
ヒロイン達、再び呆れ顔。
「はいはいはいはい」
その日から、訓練場には新しい光景が生まれた。
彩香が厳しく言う前に、みのりが横で優しく補足。
ひかりは泣きそうになる前に、みのりを見る。
そして必ず立ち直る。
グレースフォース。
泣き虫と怒れる守護者。
そして――
その二人を前に、播州の烈火ですら一瞬たじろぐ。
戦隊ヒロインは今日も平和である。
ただし、百合濃度は日に日に上昇中。




