既読がつかない六時間 ~グレースフォース通信危機一髪~
駿河の良心・杉山ひかりと、千葉の叡智・館山みのり。
背丈も雰囲気もそっくりな二人は、地元の国立大学に通う理知的女子大生にして、戦隊ヒロイン屈指の知性派ユニット「グレースフォース」としても大人気である。
ステージでは凛と並び立ち、戦闘任務では息ぴったり。
その姿はまるで対称形の白鳥。
しかし、その裏では――
「おはよう、ひかり。今日は一限からだよね?」
「うん。みのりは統計のテストだよね?がんばってね」
「お昼なに食べた?」
「学食のカレー。ちょっと辛かった」
「辛いの苦手だったよね?水たくさん飲んで」
最低でも一日五回。
正確には十回を超える日もある。
通話やメッセージでの連絡が、もはや生活の一部だ。
静岡と千葉。物理的距離はあるが、精神的距離はゼロどころかマイナスである。
その様子を見て、美月が河内弁で呆れる。
「お前らなぁ、熟年のおしどり夫婦か! 朝から晩まで連絡しとるやないか!」
播州の彩香も荒っぽく笑う。
「もう“友情”ちゃうやろ、それ。保険の受取人にでもなっとけや」
麗奈がクールに言い放つ。
「戦闘中でも通知音鳴りそうで怖いわね」
二人は顔を赤くする。
「そ、そんなことないよね?」
「ね、ね?」
完全にある。
ある日のことだった。
ひかりは地方イベントに出動。
みのりはヒロ室で資料整理。
いつものように昼に「今着いたよ」とメッセージが来る――はずだった。
来ない。
既読もつかない。
送信もできない。
ヒロ室の通信が一斉に沈黙した。
「通信障害らしいです」と隼人補佐官。
「六時間ほど復旧の目途が立たないとのこと」
六時間。
その瞬間、みのりの顔色が変わる。
「……ひかり、大丈夫かな」
普段冷静沈着、地元を侮辱された時以外は動じない千葉の叡智が、明らかに情緒不安定である。
「イベント会場で何かあったらどうしよう」
「転んでないかな」
「ちゃんと水分取ってるかな」
美月が横で笑う。
「おいおいおい、戦闘任務やなくてトークイベントやで?」
彩香が肩を叩く。
「六時間で泣きそうとか重すぎやろ」
みのりは本気でうろたえている。
「だって、いつも連絡あるから……」
その姿は完全に遠距離恋愛中の恋人である。
六時間後。
ヒロ室の通信が復活。
みのりの端末が震えた。
《ひかり:今やっと送れたよ!会場すごく暑くてね……》
次の瞬間。
「ひかりぃぃぃぃ!!」
雄叫び。
ヒロ室に響く歓喜。
涙を浮かべ、両手で端末を握りしめる千葉の叡智。
「無事でよかった……」
完全にドラマ最終回。
その様子を見たヒロイン達は一斉に。
「はいはいはいはいはい」
呆れの大合唱。
さらに数秒後。
《ひかり:みのりから連絡こないから心配してたよ》
今度はひかり側も同じ状態だったことが判明。
二人同時に「会いたい」と打ち込み、同時送信。
ヒロ室、静まり返る。
美月がぽつり。
「もう結婚せえや」
彩香が追撃。
「グレースフォース改め“新婚フォース”やな」
麗奈はため息。
「せめて通知音はサイレントにしてちょうだい」
みのりとひかりは、顔を見合わせて微笑む。
「またすぐ会えるよね」
「うん、すぐ会える」
遠距離だが、心は常時接続。
ヒロ室の通信障害は復旧したが、
この二人の回線は、今日も絶好調で鳴り止まない。
グレースフォース。
戦闘能力、知性、人気――そして、百合濃度。
すべてが規格外である。




