真帆不在!?ヒロ室崩壊の危機と“静の杉山”覚醒の日
その朝、ヒロ室に激震が走った。
「真帆さん、本日終日不在です」
その一文で、空気が一段冷える。
百人力の女。
永田町もスポンサーも現場も一気通貫で回す二刀流フロント。
安岡真帆。
その真帆がいない。
美月が椅子を揺らす。
「終わったな」
彩香が腕を組む。
「今日はもう解散やろ」
麗奈が冷静に言う。
「大袈裟よ」
だが全員わかっている。
真帆がいない日は、地味にヤバい。
そこへ琴音が入ってくる。
「大丈夫だに。代役は決まってるだら」
視線が一斉に向く。
「杉山ひかり」
駿河の良心、インターン生。
ひかり、硬直。
「わ、私ですか?」
「今日だけだに。真帆さんポジションの窓口担当」
会議室がざわつく。
美月が小声で。
「泣くで」
彩香が頷く。
「絶対泣く」
ひかりは深呼吸。
「やります」
その一言で、琴音の目が少し光る。
午前九時。
電話が鳴る。
「はい、戦隊ヒロインプロジェクトでございます」
いつもより一段丁寧な声。
相手は某省庁担当。
「本日の資料、差し替えが必要になりまして」
ひかり、冷静。
「承知しました。変更点をメールでいただけますか?」
横で琴音が無言でサムズアップ。
美月が囁く。
「普通に出来とるやん」
彩香も驚く。
「意外といけるやん」
次はスポンサー企業。
「ロゴの位置が気に入らない」
ひかりは一瞬詰まる。
だが琴音が小声で。
「共感だら」
ひかりは頷く。
「お気持ちよくわかります。より目立つ配置をご提案いたします」
電話口の声が柔らぐ。
「それなら任せる」
通話終了。
琴音が静かに言う。
「静の杉山だに」
午後。
ヒロ室は相変わらず動物園。
美月と彩香が言い争う。
「カレーは中辛やろ!」
「甘口が王道や!」
麗奈が呆れる。
「またそれ?」
ひかりは横目で見つつ、資料をまとめる。
会議室では省庁オンライン会議。
琴音が疾風のように議題を整理。
「結論を先にだら」
ひかりが補足。
「本日中に三案出します」
隼人補佐官が腕を組む。
「いいコンビだな」
会議終了後。
隼人が真顔で言う。
「フロント候補だ」
ひかり、目を丸くする。
「え?」
「真帆さんの代わりは簡単じゃない。だが今日は回った」
琴音がさらり。
「静の杉山、疾の小宮山だに」
その響きに、美月が吹き出す。
「なんや必殺技みたいやな」
夕方。
最後の山場。
メディアからの急な問い合わせ。
「本日のイベント主旨について、簡潔に」
ひかりは一瞬だけ女子アナ志望の顔になる。
「子どもたちの未来を応援する取り組みです。ヒロインは憧れであると同時に、地域とともに歩む存在です」
声が澄んでいる。
琴音が小さく頷く。
「原稿修正いらんだら」
すべての案件が片付いた夕方六時。
ヒロ室は崩壊していなかった。
むしろ、静かに回っていた。
美月が椅子に沈み込む。
「真帆さんおらんでも回るやん」
彩香が言う。
「でも胃薬の減りは真帆さんの方が少なそうや」
ひかりは机に手を置く。
少しだけ、充実感。
琴音が声をかける。
「どうだに?」
「大変でした。でも……楽しかったです」
その言葉は本音だった。
女子アナウンサー志望。
ステージで言葉を届ける夢。
だが今日、ひかりは知った。
運営する側の面白さ。
戦略を組み、現場を回し、
ヒロインたちを守る側の重み。
「このまま続けたら、真帆さんみたいになれるでしょうか」
琴音は笑う。
「真帆さんは一人だに。でもひかりはひかりだら」
「フロントも悪くないだら?」
ひかりは小さく笑う。
「贅沢な悩みですね」
隼人が通りがかる。
「悩めるうちが花だ」
夜。
帰り際、ひかりは空を見上げる。
駿河の良心は揺れている。
女子アナか。
フロントか。
ヒロインか。
どれも本気で、どれも楽しい。
ヒロ室の灯りがまだついている。
琴音が最後のメールを打っている。
その背中は小さいが、頼もしい。
ひかりは思う。
「静の杉山、疾の小宮山」
悪くない。
真帆不在の一日は、
ヒロ室を崩壊させるどころか、
新しい可能性を生んだ。
そして翌朝。
真帆が戻る。
「何も問題なかった?」
全員が声を揃える。
「ありませんでした!」
真帆は少し寂しそうに笑う。
ヒロ室は今日も騒がしい。
駿河の良心の悩みは、
まだまだ続く。




