駿河の良心、甲斐の疾風に敗北!?~ステージ裏に潜む“庶務神”の正体
ヒロ室インターン二日目。
駿河の良心・杉山ひかりと、千葉の叡智・館山みのり――グレースフォースの二人は、今日も真面目にメモを取っていた。
目の前では、大型イベントの準備が進んでいる。
表では美月が「照明もうちょい派手にせぇや!」と叫び、彩香が「マイクの高さが違う!」と騒ぎ、麗奈が新機材に手を出そうとして里奈に止められている。
完全に動物園である。
しかし、ひかりの視線はその隣、パーティションの向こう側に向いていた。
そこには――
甲斐の疾風・小宮山琴音。
電話を耳に挟みながら、パソコンを打ち、片手で弁当の数を確認し、コピー用紙の残量をチェックし、同時にスポンサー資料の誤字を修正している。
「え、三十七個? いや三十八? アレルギーは卵抜きだに、確認してくりょう」
「火元責任者の署名? いま出すじゃんけ」
「コピー機のトナー今日届くって言ったじゃん、お願いだに」
三方向同時処理。
ひかりが固まる。
「……みのりさん」
「うん」
「今、三人いました?」
「いや、一人だよ」
その横で、高島里奈が静かに領収書を整理し、内田あかねが契約書をチェックしている。
だが中心は間違いなく琴音だ。
イベント当日。
ステージは華やかだった。
グレースフォースも完璧なパフォーマンスを披露し、客席からは大歓声。
だがステージ裏は戦場。
「マイク一本足りない!」
「来賓席のネームプレート逆!」
「プロジェクター映らない!」
ひかりは一瞬青ざめた。
だが琴音は振り向かない。
「マイク倉庫の右奥、白い箱。ネームプレートは上下逆だに。プロジェクターは電源コード踏んでるだけじゃんけ」
全部見えている。
ひかりの中で何かが崩れた。
「……これが、庶務力……」
みのりが小声で言う。
「戦術理論より高度かも」
ひかりは思い出す。
女子アナを目指す自分。
原稿、発声、表情管理――全部大事だ。
だが今目の前で行われているのは、
“全体を回す力”。
イベント終了後。
琴音は何事もなかったかのように、ゴミ袋をまとめ、弁当の空き箱を数え、会場の忘れ物をチェックしている。
汗ひとつ見せない。
ひかりが近づく。
「琴音さん……」
「ん?」
「どうしてそんなに、何でも把握できるんですか?」
琴音は首をかしげる。
「いや、当たり前じゃんけ。回らなきゃ困るだら」
当たり前。
ひかりはみのりを見る。
「……私たち、表ばかり見てましたね」
みのりも静かに頷く。
「目立つところだけが戦いじゃない」
その瞬間、琴音の電話が鳴る。
「はい、あ、慰安旅行の見積り? いや高いじゃんけ、もっと削れんかね」
現実に引き戻される。
ひかりは吹き出した。
「さっきまで感動してたのに……!」
「削れるところは削るだに」
そして例の名言。
「戦隊ヒロインプロジェクトは金はねえけど、夢はあるじゃんけ。いいじゃねえけ。」
みのりが笑う。
「でも夢も予算も両立させるのがフロントですよね」
琴音は肩をすくめる。
「だから忙しいだに」
その背中は小さい。
だが異様に頼もしい。
ひかりは深く頭を下げた。
「私も、原稿だけでなく全体を見られる人になります」
琴音はにやりと笑う。
「まずは弁当の数覚えるところからだに」
みのりが真顔でメモを取る。
「三十八、卵抜き一」
ひかりが笑う。
華やかなステージ。
歓声。
ライト。
その裏で、誰よりも静かに全体を支える存在。
駿河の良心は、この日初めて知った。
甲斐の疾風は、
実は“庶務神”だったということを。
そしてヒロ室は今日も動く。
コピー機が唸り、
電話が鳴り、
美月が騒ぎ、
彩香が文句を言い、
琴音が全部回す。
ひかりは小さくつぶやく。
「……これ、女子アナ試験より難しいかも」
みのりが頷く。
「でも面白いね」
目立たない戦い。
だが確実に誰かを支える力。
グレースフォースはこの日、
新たな修行先を見つけたのだった。




