知性は止められない!グレースフォース、フロント地獄の一週間
新橋ヒロ室に、異様な静寂が訪れていた。
原因はただ一つ。
館山みのりと杉山ひかり――通称グレースフォースが、インターン生としてフロント業務に投入されたからである。
「本日より一週間、フロント実務研修を行います」
甲斐の疾風・小宮山琴音が腕を組む。
隣には元大物代議士秘書の安岡真帆。
「戦えるだけじゃダメよ。裏が回って初めて戦隊ヒロインは成立するの」
ひかりは静かに頷き、穏やかな駿河弁で答える。
「承知しました。実務から学ばせていただきます」
みのりもメガネを押し上げる。
「千葉の叡智、発揮します」
琴音がにやり。
「期待してるじゃんけ」
――そして三日後。
電話応対、資料作成、イベント行程表の再構成、スポンサー向け報告書の下書き。
二人は驚異的な速度でこなしていった。
「この文言、法的に曖昧です。修正しますね」
「こちらのデータ、グラフ化した方が一目で分かります」
テキパキ。
無駄がない。
しかも笑顔。
真帆が小声で琴音に言う。
「あの二人、即戦力どころか戦力よ」
琴音も小声で返す。
「遥室長がもう二人いるみてえだに」
フロント陣の評価は上々。
――だが。
パーティションの向こう側。
「揖保乃糸の方が絶対うまい!」
「そうめんは細さが命や!揖保乃糸もそうめんやろが!」
美月と彩香が本気で怒鳴り合っていた。
テーマは“揖保乃糸とそうめん、どちらが美味いか”。
「細さが違うねん!」
「いやだから揖保乃糸もそうめんや!」
「ちゃう!」
「ちゃうくない!」
みのりとひかり、無言。
みのりがそっと検索する。
「……揖保乃糸は兵庫県産のそうめんですね」
ひかりが静かに頷く。
「どちらもそうめんです」
二人は顔を見合わせる。
「……」
「……」
言葉が出ない。
その横で琴音がぼそり。
「ヒロ室はな、こういう場所じゃんけ」
みのりが真顔で尋ねる。
「これは……通常業務ですか?」
「通常運転だに」
彩香が振り向く。
「みのり!どっちや!」
みのりは冷静に答える。
「どちらも美味しいです」
「ずるい答えや!」
ひかりも穏やかに言う。
「争うほどの差はありません」
「裏切りや!」
美月、机を叩く。
琴音が立ち上がる。
「はいはい、揖保乃糸もそうめんもヒロ室の経費じゃねえから静かにしろし」
そこだけ現実。
みのりは深く息を吸う。
「……フロントの仕事は、理性を保つことも含まれるのですね」
真帆が笑う。
「そう。どんなカオスでも顔色を変えない。それがプロよ」
午後。
各省庁合同イベントの調整資料を二人が仕上げる。
無駄がなく、簡潔で、美しい。
琴音がページをめくる。
「完璧じゃんけ」
真帆も頷く。
「フロント修行、合格ね」
その瞬間。
「コピー機止まった!」
「カレーこぼした!」
「誰や電源抜いたん!」
阿鼻叫喚。
みのりとひかり、同時に立ち上がる。
「私が対応します」
「こちらは私が」
冷静。迅速。的確。
十分後、騒動は鎮圧。
琴音が腕を組む。
「……百合コンビ、恐るべしじゃんけ」
ひかりが微笑む。
「実務は学ぶことが多いです」
みのりも頷く。
「戦うだけでは国は動きませんね」
パーティションの向こうでは、美月がまだぶつぶつ言っている。
「でも揖保乃糸の方が高級やろ……」
彩香も負けていない。
「ブランドや!」
みのりとひかり、また無言。
その視線の先にあるのは、誇りでも怒りでもなく、純粋な呆れ。
しかし次の瞬間、二人は笑う。
「……ヒロ室らしいですね」
「ええ」
琴音が満足げに頷く。
「理知も現場も、両方できて一人前じゃんけ」
真帆が静かに締める。
「グレースフォース、フロント適性あり。将来有望」
こうして一週間の修行は終わった。
理知的で優秀。
しかもカオス耐性あり。
ヒロ室は今日も騒がしい。
しかしその中心には、静かに仕事を片付ける百合コンビの姿があった。
揖保乃糸とそうめんの違いを知らない戦友を横目に、
グレースフォースは一段、階段を上ったのである。
知性は止められない。
だがヒロ室の騒音も止まらない。




