ヒロ室年度末デッドライン ―8,420円の逆襲と沈黙のコピー機―
年度末。
それは官公庁も企業も、そしてヒロ室も、静かに震える季節である。
ヒロ室の予算残高――
8,420円。
会議室に沈黙が落ちた。
「え、桁ひとつ抜けてないですよね?」と内田あかね。
けちのんこと佳乃が冷静に言う。
「抜けてません。戦隊ヒロインプロジェクトは国民の皆さまの血税で運営されています。無駄遣いは一切していません」
美月が叫ぶ。
「してへんのに、なんでこんな残高やねん!」
原因は不明。
もともとの割り当てが少ないという事実だけが、静かにそこにある。
その時だった。
ガガガガガ……キュイーン……ピタ。
ヒロ室の心臓部、コピー機が沈黙した。
「用紙詰まりじゃないです。完全停止です」
琴音がしゃがみ込み、カバーを開ける。
トナー残量ゼロ。部品エラー表示。修理費概算、27,000円。
予算残高8,420円。
詰んだ。
美月が机を叩く。
「コピー機ないと、イベント資料どうすんねん!」
彩香「なんとかならんのか」
ならない。
そこへ、百人力フロント安岡真帆さんが現れる。
「騒がない。まず整理しましょう」
永田町仕込みの冷静さ。
だが事態は深刻だ。
来週は各省庁合同会議、スポンサー説明会、さらにイベント台本の大量印刷。
コピー機が止まればヒロ室は止まる。
ナレーションが入る。
――これは、ただのコピー機ではない。
ヒロ室の未来を賭けた、静かなる戦いの幕開けである。
琴音が立ち上がる。
「修理は無理。ならば発想を変えるじゃんけ」
けちのんが眉をひそめる。
「まさか新規購入?」
「違うじゃん。借りる」
「どこから?」
琴音の目が光る。
「このビル、何階まであるじゃんけ?」
ヒロ室は新橋の雑居ビルの一角。
上階には税理士事務所、下にはITベンチャー、隣は社労士。
琴音、突撃外交開始。
五分後。
税理士事務所のコピー機を“共同利用契約”という名の口約束で確保。
条件:
「ヒロインのサイン入り色紙を1枚」
安い。
だが問題はある。
大量印刷は夜間限定。
税理士事務所の営業時間外のみ使用可。
ヒロ室、深夜コピー作戦決行。
美月が台本を抱え、みのりがホチキスを握り、麗奈が丁合を担当。
完全に手作業工場。
美月「うちら何やってんねん!」
琴音が静かに言う。
「戦隊ヒロインプロジェクトは金はねえけど、夢はあるじゃんけ。いいじゃねえけ。」
なぜかやる気が出る。
その頃、真帆さんは別ルートで動いていた。
大物代議士に電話。
「コピー機が止まりまして」
「なんだと?」
「しかし自力で乗り切ります。ですが、来年度予算について少しだけ…」
政治の匂いがする。
翌日。
スポンサー企業から“デジタル化推進支援”という名目で中古複合機が無償提供されることに。
誰が根回ししたかは不明。
波田顧問が一言。
「政治ってのはな、表で握手、裏で段取りだ」
コピー機復活。
ヒロ室は息を吹き返す。
美月が感動的に叫ぶ。
「コピー機って、こんなにありがたい存在やったんか…!」
麗奈が真顔で言う。
「文明の勝利ね」
琴音はそっと新しい機械を撫でる。
「年度末、乗り切ったじゃんけ」
予算残高は変わらず8,420円。
だがヒロ室は今日も動く。




