百人力ヒロイン、政界も制す!?真帆さんの胃薬と野望
最近、ビジネス街の駅売店でやたらと売れている新聞がある。
経済の深掘り記事と辛口コラムが名物で、株価分析も鋭い。なのに、なぜか競馬予想の的中率が高いという、真面目なのか娯楽なのか分からない絶妙ポジションのあの新聞だ。
その一面に、どーんと掲載された特集。
《“戦うキャリアウーマン”安岡真帆の現場力》
戦隊ヒロインでありながら、プロジェクトのフロントを一手に担う百人力の女。
政治折衝、スポンサー交渉、自治体調整、イベント運営、メディア対応、若手ヒロインのフォロー、さらには戦闘訓練まで。
「一日は二十四時間しかないはずなんですが」
記者がそう書き添えるほどの密度。
インタビューで真帆さんは淡々と語る。
「役割が多いだけです。全部同じ方向を向いていますから」
落ち着きすぎている。
記事は瞬く間に拡散。
“ヒロインなのに経済誌に出る女”として話題になった。
そして当然、あの人の耳にも入る。
与党の重鎮。
裏の総理とまで言われる超大物代議士。
永田町の廊下で、ぶら下がり記者に囲まれながら豪快に笑う。
「最近話題の戦隊ヒロインの安岡真帆? ああ、アレな」
周囲がざわつく。
「あの子、昔オレのところに居たんだよ。見ての通りよく仕事出来る子でな。ちょっとヒロインプロジェクト手伝って来いって送り出したら、いつの間にかヒロインで大活躍だよ。ワハハ!」
記者団、半笑い。
大物はさらに続ける。
「まあ、そのうち帰って来てもらってもいいけどな。オレが引退する時は地盤譲ってもいいくらいだ」
冗談なのか本気なのか分からない爆弾発言。
その動画を見たヒロイン控室。
美月が叫ぶ。
「真帆さん、地盤もらえるらしいで!?」
彩香が腕を組む。
「ヒロインから代議士とかスケールでかすぎやろ」
みのりが真面目に分析。
「地盤継承は実務的に重い案件ですね」
乙実がぽつり。
「地盤って、畑みたいなもんだべか」
全員、爆笑。
しかし当の真帆さんは、机に向かいながら静かに胃薬を飲んでいる。
「……増えたわね」
瓶の中身が目に見えて減っている。
大物代議士は昭和のノリが抜けない。
「最近のヒロインはもっと腹から声出せ!」「根性論も大事だ!」
口やかましい。だが、根は情に厚い。
実際、戦隊ヒロインプロジェクトが消滅危機に陥ったとき、裏で政治力を使い何度も防波堤になったのも事実。
自分こそが“生みの親”だと自認している。
真帆さんにとっては、恩人であり、上司であり、時に爆弾。
ある日、大物から電話が入る。
「真帆! 次のイベント、もっと派手にやれ! 国威発揚だ!」
「代議士、コンセプトが違います」
「細けぇこと言うな!」
電話が切れる。
その五分後、ヒロインたちからメッセージが飛ぶ。
「次の演出、絶対キラキラ増やしたいです!」
「もっと自由にやりたい!」
板挟み。
美月が横で言う。
「真帆さん、大丈夫?」
「ええ。慣れてるわ」
そう言いながら、胃のあたりをさする。
波田顧問が煙草(もちろん吸ってはいない、イメージだ)をくゆらせる風に言う。
「永田町で鍛えられた調整力ってやつだな。あの子は」
乙実がしみじみ。
「うちの集落の長老の無茶振りも大変だったけど、レベル違うべ」
確かに違う。
長老は祭りの順番を変えろと言うだけだ。
代議士は国家規模で無茶を言う。
だが真帆さんは、どちらにも正面から向き合う。
ヒロインたちを守り、政治を立て、スポンサーを納得させ、メディアを味方につける。
イベント当日。
ステージで落ち着いた口調のMCをこなす真帆さん。
観客は静かに聞き入り、最後は大きな拍手。
裏に戻るとすぐ電話。
「代議士、無事成功しました」
「おう。よくやったな」
短い一言。
それだけで、少しだけ胃の痛みが和らぐ。
真帆さんはまだ若い。
だが背負っているものは重い。
政治の現実。
若いヒロインたちの未来。
そして、この国の空気。
「将来のことは、将来考えます」
そう言って書類を閉じる。
百人力のフロント兼ヒロイン。
政界からも現場からも引っ張られる存在。
今日も真帆さんは戦っている。
敵は怪人でも政治家でもない。
スケジュール表と胃酸である。
だが笑顔は崩れない。
戦うキャリアウーマン。
その背中には、まだ物語が続く気配が漂っていた。




