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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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524/694

ご清聴ありがとうございますが言えない女たち——真帆の政治講座、大炎上の巻

ヒロ室ミーティングスペースに、珍しく重々しい空気が漂っていた。


ホワイトボードには大きくこう書かれている。


「政治的挨拶 基礎講座」


講師:安岡真帆。


元大物代議士秘書。永田町の修羅場を知り尽くした女である。


「近々、地方自治体の首長や議員の方々と同席するイベントが増えます。ヒロインとして最低限の“政治的挨拶”は身につけておきましょう」


真帆の声は落ち着いている。

だが、目が本気だ。


「基本は三点。感謝、敬意、そして無難」


この時点で、美月が小声で呟く。


「無難って一番むずいやつやん」


彩香が腕を組む。


「ウチらに無難求める時点で間違っとるわ」


真帆は聞こえないふりをした。


「では、実践です。『本日はお招きいただき誠にありがとうございます』から始めてください」


トップバッター、美月。


マイクを握る。


「本日はお招きいただきまして、ほんまにありがとうございます!この街、めちゃくちゃええとこやなって思いましたわ!」


真帆、即座にメモ。


「関西色、やや強いです」


彩香。


「本日は呼んでもろてありがとうございます!この街の気合い、感じましたわ!」


「“気合い”は抽象的です」


みのりは理知的にいく。


「本日は貴重な機会を賜り——」


途中で止まる。


「“賜り”って噛みそうですね」


柏木理世は理屈で攻める。


「本日は行政と市民の協働の重要性を——」


真帆が慌てて止める。


「政策提言は不要です」


阿部柚葉は感性派。


「この街の風の匂い、好きです」


「それはポエムです」


神代なつめは腕を振り上げる。


「今日は全力でいくきねぇぇぇ!」


「選挙演説ではありません」


場はすでに崩壊寸前。


そこへ、静かに手を挙げる乙実。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます。お世話になります」


以上。


余計な一言なし。


真帆、静止。


ヒロイン一同、沈黙。


美月がひそひそ。


「……普通や」


彩香が呟く。


「一番怖い普通や」


真帆の目が輝く。


「完璧です」


乙実、きょとん。


「んだ? 普通に言っただけだべ」


真帆はホワイトボードに大きく書く。


“乙実モデル”


「政治の場では、自己主張より“無害さ”が武器です」


すると麗奈が笑う。


「乙実ちゃん、政治家向きじゃない?」


小春が茶化す。


「いぶし銀候補者、爆誕?」


美月が乗る。


「比例区いけるで!」


乙実、慌てる。


「やめてけろ!」


だが真帆は本気だった。


「実際、場を荒らさない、敵を作らない、言い過ぎない。これは才能です」


そのとき、波田顧問が入ってくる。


「おいおい、なんだこの講座は」


真帆が説明する。


「政治的挨拶の基礎を——」


波田顧問はヒロイン達を一瞥し、笑う。


「こいつらに無難を仕込むのは無理だな」


美月が即座に反応。


「せやな!」


彩香も頷く。


「ウチらは暴れてナンボや」


真帆、ため息。


「……では方向転換です。最低限“炎上しない”ことを目標に」


しかし次の瞬間。


なつめが手を挙げる。


「炎上って、どの程度からが炎上なが?」


あかねが法律的に説明を始める。


理世が統計を持ち出す。


柚葉が感性で反論する。


再びカオス。


その中心で乙実がぽつり。


「みんな、落ち着くべ」


一言で、なぜか空気が静まる。


真帆は思った。


(……やはり、この子だ)


個性の塊のヒロイン達。


爆発力はあるが、政治向きではない。


だが乙実は違う。


派手さはない。

声も大きくない。


だが場を荒らさない。

人を立てる。


真帆は静かに呟いた。


「いぶし銀……恐るべし」


講座は結局、失敗と言えば失敗だった。


誰一人、完全な政治挨拶を習得できなかった。


だがひとつだけ収穫があった。


「乙実、政治的資質あり」


という謎の結論である。


帰り際、美月が笑いながら言った。


「乙実ちゃん、将来、県議とか出たら応援するわ」


彩香も乗る。


「ウチ、選挙カー乗ったるで」


乙実は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「やめでけろってば!」


ヒロ室に響く笑い声。


真帆は心の中で思う。


(政治的挨拶は失敗。でも、ヒロイン達の個性は守れた)


それでいい。


政治は計算。

ヒロインは熱量。


その中間に立てるのは、きっと——。


「乙実さん、また今度、個別講座を」


「えっ、まだやるんですか?」


再び悲鳴が上がるヒロ室。


政治講座は終わらない。


だが今日の結論は明確だった。


乙実、最も無難。最も政治向き。


そして、ヒロイン達はやっぱり無難にはなれない。

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