閣議決定を“必殺技”にする女 ――真帆、政治用語をヒロイン語に翻訳して現場が大混乱の巻
戦隊ヒロインプロジェクトの人気は、今や全国区。
テレビ、配信、地方イベント、慰問活動、そして蒼牙2000・改の除雪出動まで含めれば、もはや国家規模の事業である。
そんな快進撃を鼻高々に眺めているのが、永田町の怪物――裏の総理とも呼ばれる元大物代議士である。
波田顧問と並び、このプロジェクト創設に深く関わった人物だ。
ある日のヒロ室。
ピロリン、と不穏な音が鳴った。
「……来たわね」
安岡真帆がスマホを見て、わずかに眉を上げる。
件名は、
《戦略的文化振興拡充に係る持続可能な地域連携施策の方向性について(私案)》
ヒロ室スタッフ一同、沈黙。
「……日本語ですか?」と内田あかね。
「漢字の密度が高すぎません?」と高島里奈。
美月がのぞき込んで、「これ読んだら偏差値3上がりそうやな」と真顔で言う。
真帆がゆっくりと口を開く。
「先生は、このようにおっしゃっています」
全員、姿勢を正す。
「“ヒロインを地方にもっと派遣して、地方創生に貢献してほしい”」
「それだけ!?」
ヒロ室にどよめきが走る。
真帆は冷静だ。
「続きです。“地域間相互交流による象徴的人材の流動化”」
「……はい?」
「つまり、“ヒロイン同士をシャッフルして、いつもと違うメンバーで地方イベントを回せ”です」
「言い方ぁ!」
さらにメールは続く。
《若年層に対する感情的帰属意識の涵養を目的とする演出強化》
真帆は無表情で言い切る。
「“もっとバズる演出をやれ”」
小春が吹き出した。
「先生、急に軽い!」
「先生は昔から、難しく言うのが趣味です」
さらに。
《既存支持基盤の高齢化に鑑み、世代間架橋機能を強化せよ》
真帆は一拍置いてから。
「“お年寄りも若い子も一緒に楽しめる企画をやれ”」
麗奈が腕を組む。
「最初からそう言えばいいのに!」
しかし混乱は止まらない。
《ヒロイン活動における可視化された成果指標の定量化》
真帆は淡々と。
「“どれくらい盛り上がったか、ちゃんと数字で出せ”です」
蒼牙2000・改が機械音声で言う。
「先生は要するに“もっとちゃんとやれ”と述べています」
「雑!」
ヒロ室は完全にパニック寸前だった。
そんな中、隅で腕を組んで聞いていた今津乙実が、ぽつりと言う。
「……役場と変わらん」
全員が振り向く。
「んだ。鶴岡の役場から来る文書も、だいたいこんな感じだ。
“地域資源の有効活用を推進する観点から云々”って書いてあって、
結局“草刈り手伝ってください”って意味だ」
爆笑。
真帆が静かに頷く。
「乙実さん、正解です」
美月が机を叩く。
「ほな先生のメールも“草刈り手伝え”レベルなんかい!」
「スケールは国家ですが、構造は同じです」
さらに真帆は、政治用語をヒロイン語に変換し始めた。
「“政策的整合性”は“話を合わせろ”
“段階的実装”は“様子見しながらやれ”
“広範な関係者調整”は“みんなに根回ししろ”」
小春がメモを取りながら叫ぶ。
「真帆さん、辞書出してください! ヒロイン語辞典!」
詩織は純粋な目で言う。
「真帆さんって、魔法みたいですね。難しい言葉が全部やさしくなる」
真帆は肩をすくめる。
「秘書というのは、翻訳業ですから」
するとそこへ波田顧問が現れる。
「なんだなんだ、騒がしいな」
事情を聞いた波田顧問は豪快に笑う。
「先生はな、難しく言うのが好きなんだよ。
だがよ、結局言いたいのは“ヒロイン、もっとやれ”ってことだ」
真帆が静かにまとめる。
「つまり――
先生は、ヒロインたちを誇りに思っている、ということです」
一瞬、空気が変わった。
ヒロ室の面々が少しだけ背筋を伸ばす。
乙実がぼそり。
「……んだば、やるしかねぇな」
美月が笑う。
「政治も役場も結局“やれ”やな!」
彩香が荒っぽく言う。
「ほなやったろやないか!」
蒼牙2000・改が低く唸る。
「国家規模の“草刈り”を開始します」
ヒロ室、爆笑。
真帆は最後にスマホを閉じ、静かに言った。
「では、先生への返信は――
“現場は全力で対応中”でよろしいですね?」
「翻訳済みや!」
こうして今日も、
政治用語はヒロイン語に変換され、
永田町の怪物の難解メールは、
現場の笑いへと昇華されたのだった。
そして誰もが思う。
――真帆がいなかったら、ヒロ室は三日で崩壊している、と。




