裏総理、降臨。——真帆、永田町仕込みの現場力で無茶振りを制圧せよ!
戦隊ヒロインプロジェクト史上、最大級の“気圧低下”が発生した日だった。
与党の重鎮、通称「裏の総理大臣」と呼ばれる超大物代議士が、ヒロ室を視察に来る——。
その一報が入った瞬間、ヒロ室フロントの空気は一変した。
「真帆さん……本物ですか?」
内田あかねが六法全書を抱えたまま震える。
高島里奈は無言でスケジュール表を修正し、波田顧問は腕を組んで天井を見上げた。
「来やがったか……永田町の怪物が」
だが、その中心に立つ安岡真帆は微動だにしない。
元大物代議士秘書。
しかもその代議士こそ、今回来訪する張本人。
さらに言えば——真帆の実家は土建屋で、その代議士の後援会会長を長年務めている。
本来なら、頭が上がらない立場だ。
しかし真帆は静かに言った。
「皆さん、通常運転でいきます。過剰演出は禁止。ヒロインを守るのが最優先です」
そして視察当日。
代議士は、昭和の風格そのままに現れた。
分厚いスーツ、鋭い目つき、背後には秘書団。
「うむ。若い子たちが頑張っておるな。ところでだ——」
ここからが本番だった。
「全員集合で写真を撮ろう。あと、子どもたちと握手会もやろう。記者も呼んでいる。段取りは任せた」
現場スケジュールはすでにギチギチ。
ヒロイン達は直前までリハーサル。
無茶振り、三連発。
美月が小声で「これ、無理やろ」と呟き、彩香が「はぁ?今から?」と眉をひそめる。
だが真帆は、にこやかに一礼。
「承知いたしました。先生のご配慮に感謝いたします」
その裏で、秒単位の指示が飛ぶ。
「里奈さん、タイムテーブル三分圧縮」
「あかねさん、記者動線整理」
「美月さん、笑顔三割増し」
「乙実さん、握手列の誘導をお願いします」
乙実は小声で「んだ……集落の長老の無茶振りも大変だったけど、これは格が違うべ」と呟きながら動き出す。
三分後、奇跡のように段取りが組み替えられた。
写真撮影は完璧。
握手会は混乱ゼロ。
記者も満足。
代議士は満足げに頷く。
「うむ。やはり安岡くんがいると違うな」
その一言で、秘書団が一斉にメモを取る。
だが真帆は淡々と返す。
「いえ、ヒロイン達の努力の賜物です」
ヒロイン達を前面に立て、政治家の顔も立てる。
どちらも潰さない。
波田顧問が横でぼそり。
「この調整力は、永田町で鍛えられた賜物だな……」
イベント終了後。
控室でヒロイン達が一斉に崩れ落ちる。
「真帆さん……すごすぎる」
「政治って、ああやって乗り切るの?」
「胃が痛くなるわ」
真帆は涼しい顔。
「昔はもっと無茶振りありましたから」
乙実がぽつり。
「うちの集落の長老も、祭りで突然演説始めたりしたけど……レベルが違うべ」
美月が笑う。
「乙実ちゃん、比較対象がおかしいねん」
そのとき、波田顧問が缶コーヒーを片手に真帆へ近づく。
「おい、安岡。今日はヒロイン守ったな」
真帆は少しだけ笑った。
「当然です。ヒロインは前に立つ人間。盾は私の役目です」
遠くで、代議士の車列が去っていく。
嵐は過ぎた。
だがヒロ室の面々は、今日一番の教訓を胸に刻んでいた。
——本当に怖いのは怪人でもテロリストでもない。
永田町の“笑顔の無茶振り”である。
そしてその前線に立つのが、
敏腕フロント、安岡真帆。
乙実は静かに思った。
「派手に目立たなくても、裏で支える人が一番強ぇんだな……」
一方、真帆はスマホを見つめる。
次の予定。
国会議員の懇談会。
小さく息を吐いた。
「……次も無茶振りですね」
それでも歩みは止まらない。
ヒロイン達を守るため、
政治家を立てるため、
そしてこの大所帯を前へ進めるため。
永田町仕込みの現場力は、今日もフル回転だった。




