真帆が指名した最終兵器は、庄内から来た地味女でした
今津乙実が戦隊ヒロインプロジェクトに参加したきっかけは、
きわめてシンプルだった。
「詩織ちゃんが言うなら、間違いないと思って」
藤原詩織の、あの曇りのない笑顔での推薦。
それがすべての始まりだった。
本人としては
「一緒に慰問活動できたらええなぁ」
くらいの感覚で、
まさか自分が“戦隊ヒロイン”になるなど、実感は皆無。
だが――
加入して三か月もしないうちに、
安岡真帆の評価だけが、異様な速度で跳ね上がっていた。
「……この子、裏方向きすぎる」
ある日のヒロ室。
真帆が資料を見ながら、ぽつりと呟いた。
隣にいた高島里奈が首をかしげる。
「乙実さんですか?
確かに、何でもやりますけど……」
「“やる”んじゃないのよ」
真帆はペンをくるりと回す。
「“先に終わってる”の」
イベント現場。
被災地慰問。
小規模自治体との調整。
誰かが
「あとでやろう」
「誰か気づいたら」
と思っていることを、
乙実は
「もう済みました」
と静かに報告してくる。
しかも一切、アピールしない。
「目立つ仕事?
あぁ、あれは他の人の方が似合うべ」
そう言って、
誰も見ていない場所で一番泥をかぶる。
真帆はそれを、
永田町で何度も見てきた。
――一番危険で、一番信用できるタイプ。
最近では、乙実のフロント業務の比重が、
じわじわと増えていた。
本人はと言えば、
「頼まれたことやってるだけです」
という顔。
ヒロインでありながら、
受付動線を確認し、
控室の椅子を並べ、
現地スタッフと自然に会話し、
高齢者のクレームを一番に引き受ける。
美月がぽつりと呟いた。
「なぁ……
あの子、いつステージ上がるん?」
彩香も苦笑い。
「気ぃついたら終わっとるわ」
実際、
ヒロイン兼フロントという立場は珍しくない。
高島里奈。
内田あかね。
どちらも「フロントとして加入」している。
だが――
ヒロインとして加入して、
フロント業務を自然にこなしているのは乙実だけだった。
決定的だったのは、被災地慰問活動だった。
感情が荒れた住民。
疲弊した自治体職員。
ピリピリするヒロインたち。
そこで乙実は、
派手なことは一切せず、
「……んだんだ、分がる」
「それ、しんどかったべ」
と、
罹災者の目線で受け止める。
結果、
誰よりも場を落ち着かせていた。
真帆はその様子を見て、
完全に腹を括った。
ヒロ室のミーティングでのこと。
真帆が真顔で言った。
「今津乙実は、
フロントの“最終兵器”です」
一同、ざわつく。
美月が即ツッコむ。
「いやいや、
地味すぎるやろ!」
乙実本人は慌てる。
「ちょ、ちょっと待ってください!
おら、武器なんて……」
真帆は笑った。
「そう。
“使ってる感がない”のが最強なの」
「希望の星でしょ。
限界集落の」
「緩衝材でしょ。
アクの強いヒロイン同士の」
「裏方も前線も分け隔てなくやる。
しかも文句言わない」
「……これ、兵器よ」
場が爆笑に包まれる。
乙実は顔を真っ赤にして、
「やめてけろ~!」
と庄内弁で抗議。
詩織は隣で、
誇らしそうに微笑んでいた。
その夜。
真帆は資料をまとめながら、独り言を漏らした。
「目立たないけど、
いないと困る」
「一番厄介で、
一番ありがたい存在」
――いぶし銀・今津乙実。
派手さはない。
主役でもない。
だが、
この戦隊ヒロインプロジェクトが
長く続くなら――
最後まで立っているのは、
間違いなくこの女だ。
真帆は確信していた。
そして乙実は、
そんな評価など知る由もなく、
「明日の資料、
もう印刷しときました」
と、
いつもの調子で言うのだった。
――地味だが、最終兵器。
物語は、静かに次の章へ進んでいく。




