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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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520/696

無敵の女が一番見抜かれた夜 ――いぶし銀、庄内から永田町を射抜く

戦隊ヒロインプロジェクトのフロントにして、現役ヒロイン。

安岡真帆は、ヒロ室では「百人力」「あの人がいれば何とかなる」と言われる存在だった。


イベントの段取り、自治体との折衝、スポンサー対応、ヒロイン同士の衝突調停。

どれも涼しい顔で片付ける。

しかも本人はステージにも立つ。

書類をまとめた五分後には、笑顔で観客に手を振っている。


「二刀流」という言葉は、真帆のためにあるようなものだった。


そんな真帆が、その日だけは、明らかにおかしかった。


地方イベントを終え、撤収作業がひと段落した夜。

ヒロインたちが控室で賑やかに反省会を始める中、真帆は壁際の椅子に腰を下ろし、珍しく黙っていた。


顔はいつも通り。

姿勢も崩れていない。

誰が見ても「問題なし」。


――誰が見ても、だ。


今津乙実だけは違った。


「……真帆さん」


庄内弁混じりの、控えめな声。


「……ちょっと、疲れてませんか?」


その場が、一瞬、静まり返った。


美月が目を丸くする。

「え? 真帆さんが? んなアホな」

彩香も鼻で笑う。

「この人がバテるわけないやろ」


本人の真帆も、苦笑した。

「大丈夫よ。これくらい、いつものこと」


だが乙実は引かなかった。

近くのテーブルからペットボトルを一本取り、差し出す。


「……飲んでください。

 今、無理してます」


言葉は少ない。

説得もしない。

ただ、静か。


真帆は一瞬、返答に詰まった。


――なぜ分かった?


永田町で何百人という政治家、官僚、記者を相手にしてきた。

疲れも弱音も、完璧に隠す術は身に染みついている。


それを、

ついこないだまで山形の限界集落で畑を耕していた女に、見抜かれた。


真帆は、負けた気がして笑った。


「……鋭いわね。

 確かに、今日はちょっと来てる」


美月たちがざわつく。

「え、マジで?」

「初めて聞いたんやけど」


乙実は得意げでもなく、ただ頷く。


「……無理してる人の顔、

 集落じゃ、すぐ分かるんです」


「無理すると、誰か倒れるから」


その言葉に、真帆の胸が少しだけ痛んだ。


永田町では、倒れても誰も気にしない。

代わりはいくらでもいる。

だから無理をするのが当たり前だった。


「……あんた、すごいわね」


真帆がぽつりと言う。


「私ね、

 人に頼るの、下手なの」


乙実は驚いた顔をして、首を振った。


「……真帆さん、

 ちゃんと頼られてます」


「みんな、真帆さんがいるから、安心してます」


その言葉に、真帆は思わず吹き出した。


「はは……

 それ、政治家にも言ってやりたかったわ」


場が和む。

笑いが起きる。


けれどその夜、

真帆ははっきりと理解した。


この地味で目立たない庄内の娘は、

自分の「裏の顔」――

無理をして、抱え込んで、倒れないふりをする部分を、

一瞬で見抜いたのだ。


派手なヒロインでもない。

声が大きいわけでもない。

だが、人を見る力だけは、ずば抜けている。


「ねえ、乙実」


「はい?」


「これから、私が無理してたら、止めて」


乙実は少し困った顔で笑った。


「……おら、

 そんな大それたこと……」


「いいから。命令」


「……はい」


そのやり取りを見ていた美月がぼそっと言う。

「なんやあれ、

 地味にええコンビやな」


彩香も頷く。

「ほんまや。

 強い女同士やのに、空気柔らかい」


その夜、

永田町の裏を知り尽くした女と、

庄内の限界集落で生きてきた女は、

不思議な友情を結んだ。


派手ではない。

だが、確かな信頼。


真帆はその後、誰にも聞こえない声で呟いた。


「……やっぱり、

 このプロジェクト、面白いわ」


そして乙実は、いつも通り平然とお茶を飲みながら、

「んだなぁ」と小さく頷いていた。


――無敵の女が、一番見抜かれた夜だった。

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