『川崎の風は少しだけ逆風 ― 水無瀬澪、市民の心つかめず』 ――哀愁と笑いのサックスブルー篇――
作者は川崎市出身です。
まぁ知らんけど。
川崎市役所は本気だった。
市を挙げて送り込んだ“代表ヒロイン”なのだから当然だ。
ところが当の本人・水無瀬澪は、期待を背負わされている自覚がまるでない。
任務前は「まぁ川崎だし」と肩を回し、
イベント前は「知らんけど」とつぶやきながら欠伸。
本人の胸の奥にはちゃんとした闘志があるのだが、
外からは 燃えてる気配がゼロ。
その結果、市民人気は妙に伸び悩んでいた。
そこで市役所が動いた。
「水無瀬澪さんを、市民にもっと知ってもらおう!
横断幕だ、横断幕を出そう!!」
典型的な昭和アプローチである。
令和のプロモーション感ゼロ。
そして……
JR川崎駅・東西自由通路に掲げられた横断幕は市民をざわつかせた。
《川崎の守りは 任せて安心☆ 水無瀬澪》
(☆の位置と使い方が昭和)
《立て!若人 水無瀬澪!!》
(若人って久々に聞いた)
《澪ちゃんがんばれ!市民総出で応援中》
(総出……?いつ?)
さらに改装工事中の市役所本庁舎前には極めつけが掲示された。
《川崎躍動の時!
行け!青き戦士・水無瀬澪!!》
市民の反応は冷たかった。
「なんか……懐かしい字体だね」
「これ、昭和40年代?」
「澪ちゃん可愛いけど、横断幕が昭和の町内会」
「“若人”は攻めすぎ」
市役所が張り切れば張り切るほど、
澪の哀愁が増していく不思議な現象が起こった。
当の本人はと言えば、
横断幕が貼られた駅の自由通路を歩きながら、
無表情でぼそり。
「なんか……目立つな。
まぁ川崎だし。
知らんけど。」
じつは澪、内心ではめっちゃ恥ずかしい。
しかし言い出すのが面倒なので放置している。
他のヒロインたちは微妙な空気を察し、
みのりはそっと肩を叩いた。
「澪ちゃん……これは……がんばって……」
(言葉が見つからない)
麗奈は爆笑を堪えながら囁いた。
「澪って、こういうの似合うよね……ふふっ」
沙羅は完全に火に油を注ぐ。
「おおっ、若人の澪!って書いてある!かっこい〜!」
(悪気なし)
澪はただ一言。
「もう、知らんけど……」
そんな彼女の哀愁と脱力感は、
逆にじわじわ市民の心を掴んでいく気配もある。
横断幕のダサさを笑おうとスマホを向けた市民が、
そのうち“澪の飾らない魅力”を語り始めるまで、
そう時間はかからなかった。




