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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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519/695

正座して再生数を回す村 〜おらが乙実は戦隊ヒロイン〜

派手な決めポーズもない。

 煽るセリフもない。

 SNSでバズるような名言も、特にない。


 それが――

 今津乙実というヒロインだった。


 イベントでは、

 前に出ることも少ない。


 センターに立てば、

 なぜか一歩下がる。


 だが。


「……あの子、

 なんかええよな」


 そんな声が、

 少しずつ、

 本当に少しずつ増えていった。


 そして、

 ある日。


 山形のローカルニュースで、

 こんな特集が流れた。


『鶴岡市出身の戦隊ヒロイン・今津乙実さん

 限界集落から羽ばたく“いぶし銀”の存在』


 画面に映るのは、

 イベント会場で

 裏方を手伝う乙実。


 コメントは相変わらず地味。


「……

 おら、できることやってるだけです」


 このニュースが、

 故郷の限界集落を直撃した。


 集落には、

 娯楽がない。


 パチンコもない。

 カラオケもない。

 ネット回線は、

 気分次第で繋がる。


 あるのは――

 集会所と、テレビと、DVDプレーヤー。


「今日は乙実、

 川口のイベントだど!」


「ほれ、

 再生すっぞ!」


 午後二時。


 集会所には、

 正座したおじいちゃんおばあちゃんが

 ずらり。


 全員、正装。


「……

 出てきたぞ」


 テレビに映る乙実。


 地味な立ち位置。

 控えめな拍手。


 だが。


「今の、

 乙実だ!」


「おらが村の乙実だ!」


 拍手。


 テレビに向かって、

 なぜか拍手。


 もはや、

 イベント動画は

 集落の共通言語になっていた。


「この前の乙実、

 裏で椅子運んでたな」


「んだ。

 昔からああいう子だ」


「誇らしいのぉ」


 会話が生まれ、

 笑いが増え、

 集落に活気が戻ってきた。


 そんなある日。


「えらい人が来るらしいぞ!」


 村中に、

 ざわめきが走る。


 訪れたのは――

 波田顧問。


 黒塗りの車が止まった瞬間、

 空気が変わる。


「総理大臣か!?」

「歴史的偉人だべ!?」


 完全に、

 国家元首レベルの扱い。


「えー、

 こちら、

 ほんの気持ちです」


 差し出されるのは、

 山盛りの山菜。

 地酒。

 漬物。

 謎の煮物。


 断れない。


 断れる雰囲気が、

 一切ない。


 夜。


「乙実は、

 おらが村の宝物だ」


 長老が、

 ドギツイ庄内弁で言う。


「どうか、

 あの子を

 よろしく頼む」


 酔いが回った波田顧問、

 ぐっと盃を置いて、


「任せとけ!」


 と、

 べらんめえ口調。


「日本中を元気にすんのが、

 オイラ達の仕事だ!」


 拍手。


 なぜか、

 ここでも拍手。


 帰り道。


 あつみ温泉。


 湯に浸かりながら、

 波田顧問は上機嫌。


「酒もうめぇ、

 メシもうめぇ、

 空気も人も最高だ」


 肩まで浸かり、

 ひとりごちる。


「……

 庄内、

 最高じゃねぇかよ」


 派手じゃない。

 目立たない。

 でも。


 村を元気にし、

 人を繋ぎ、

 誇りを生む。


 今津乙実は、

 今日もどこかで

 ひっそりと、

 しかし確実に――

 “いぶし銀”として輝いていた。

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