拍手が一番大きかったのは、地味な子でした
その日の慰問活動は、
千葉県内の、
年季の入った老人ホームだった。
廊下には消毒液の匂い、
壁には昭和の運動会の写真、
テレビは常に音量二十。
完全に、
若者のノリが一番通用しない空間である。
派遣されたのは――
今津乙実、月島小春、阿部柚葉、水無瀬澪、柏木理世。
本来なら、
ここに慰問の切り札である
平塚美波と大宮麗奈がいるはずだった。
だがこの日は、
二人とも別会場へ出払っていた。
「……大丈夫かな?」
澪が小声で言う。
「まあ、なんとかなるっしょ!」
小春はいつも通り元気だ。
柚葉はノリで腕を上げ、
理世は資料を確認している。
若い。若すぎる。
開始五分。
小春のテンポの良いトークに、
入所者の反応は――
「……ほう」
「……誰だっけ?」
「……若いのぉ」
完全に、
熱は伝わらず、礼儀だけが返ってくる状態。
澪の歌も、
理世の丁寧な説明も、
柚葉の勢いあるパフォーマンスも、
決して悪くはない。
だが――
刺さらない。
会場に流れる、
微妙な空気。
(これは…詰んだかも)
ヒロイン達の脳裏に、
うっすらと同じ言葉が浮かぶ。
「……あの」
そこで、
静かに声を出したのが乙実だった。
「今日は、
足元悪い中、
来てけで、
ありがとさまです」
庄内弁。
声は大きくない。
身振りも派手じゃない。
だが。
「おらの集落にも、
こういう施設あってのぉ」
ざわ、と
空気が変わる。
「ばあちゃん達、
昔は田んぼも畑も、
自分でやってた人ばっかりで」
「今は動けねぇけど、
若い頃の話すると、
急に元気になったりすっんです」
入所者の顔が、
少しずつ上がる。
「おら、
今日は聞き役で来ました」
「昔の話、
いっぱい聞かせでください」
――完全ヒット。
「お嬢ちゃん、
どこから来たんだ?」
「庄内です」
「ほぉ!
庄内!
あっちは米がうめぇ!」
「んだんだ」
会話が、
自然に転がり始める。
小春、ぽかん。
「……え、
今の一言で?」
澪、目を丸くする。
「歌、いらなかったですね……」
柚葉は苦笑し、
理世は眼鏡の奥で分析を始めている。
乙実は、
入所者一人一人の話を、
否定せず、急かさず、
全部「んだ」って受け止める。
まるで、
昔からそこにいたかのように。
「お嬢ちゃん、
また来てくれっか?」
「はい。
来れたら、
また来ます」
この一言で、
拍手。
しかも、
この日一番大きい拍手。
終了後。
「……正直、
助かりました」
理世が素直に頭を下げる。
「完全に主役でしたね」
澪も苦笑する。
「乙実さん、
なんでそんなに自然なの?」
小春が聞く。
乙実は首をかしげる。
「……
集落、
年寄りしかいねぇので」
一同、納得。
「感謝されてますよ」
スタッフが言う。
「入所者さん達、
“あの地味な子が一番よかった”って」
乙実、きょとん。
「……そうですか?」
まったく動じない。
派手なことはしない。
目立つこともしない。
でも。
一番安心され、
一番覚えられ、
一番感謝される。
今津乙実――
今日もまた、
高齢者ウケという
誰も予想しなかった分野で、
無双していた。




