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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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517/694

空気が凍った会議室を、庄内弁が溶かした日

戦隊ヒロインの世界には、

 日常的に二種類の対立が存在する。


 一つは――

 美月と彩香の子供じみた喧嘩。


「なんであんた毎回前出んねん!」

「うるさい言うとるやろが播州!」


 これはもう名物だ。

 低次元すぎて、誰も止めない。

 止めると長引く。

 放っておくと五分で終わる。


 ヒロイン全員、心得ている。


 問題は、

 もう一つの対立である。


 静かで、冷たく、

 そして、やたらと重い。


 戦術会議室。


 机の左右に座る二人の間に、

 見えない冷気が漂っていた。


 左――

 感性を武器にする、秋田美人・阿部柚葉。

 直感型。大胆。

 「面白いかどうか」で判断するタイプ。


 右――

 港区女子の理論装備・柏木理世。

 ロジック至上主義。

 数字、前例、合理性を愛する。


 水と油。

 しかも両方、自己肯定感が高い。


「……その案、

 根拠が曖昧すぎませんか?」


 理世が静かに切り出す。


「感覚で動くのは危険です」


 柚葉、眉が一ミリ動く。


「感覚がない人に言われてもね」


 声は低い。

 でも、刺さる。


 会議室の空気が、

 一段階、重くなる。


 誰も笑わない。

 美月も彩香も、珍しく黙っている。


(これはヤバいタイプのやつだ)

 全員が内心で思った。


「感性って、

 積み上げてきた経験の集合体なんです」


 柚葉、続ける。


「数字だけ見てたら、

 人は動かない」


「でも」

 理世は即座に返す。

「数字を無視した成功は、

 再現性がありません」


 完全に冷戦。


 真帆が小さくため息をつく。

 遥室長も腕を組む。


(これは止めに入ると逆効果だな……)


 そんな空気の中。


「……あの」


 小さな声。


 今津乙実だった。


 相変わらず控えめ。

 相変わらず前には出ない。

 でも、確実に“間”にいる。


「おらの集落だど……

 田んぼの水、

 感覚で見る人と

 水位計で見る人、

 両方いるんです」


 庄内弁、静かに放たれる。


「感覚の人は、

 “今年は嫌な匂いする”って言うし」


「数字の人は、

 “問題ない数値だ”って言う」


 全員、無言。


「でも……

 どっちも間違ってねぇことが多い」


「感覚だけだと、

 理由が説明できねぇし」


「数字だけだと、

 異変に気づくの遅れる」


 乙実、淡々と続ける。


「だから……

 おらの村じゃ、

 最終的に二人で

 用水路見に行くんです」


 会議室、静寂。


 柚葉が、ふっと息を吐く。


「……それ、

 ちょっと分かる」


 理世も、眼鏡を直す。


「理屈としては……

 確かに合理的です」


 空気が、

 ゆっくり溶けていく。


「……乙実さん」

 真帆が小声で言う。

「今の、完璧でした」


 遥室長も頷く。


「これまで、

 感情型と論理型を

 真正面から繋げられる人、

 いなかったのよ」


 美月がぽつり。


「……うちらの喧嘩と、

 レベル違いすぎるな」


「せやな」

 彩香も苦笑する。

「これは放置したらアカンやつ」


 柚葉が乙実を見る。


「……ありがとう。

 ちょっと、

 言い過ぎたかも」


 理世も続く。


「こちらも……

 少し硬すぎました」


 完全停戦。


 乙実は、

 慌てて手を振る。


「いえいえ!

 おら、

 なんもしてねぇです!」


 その瞬間。


「いや、した」

 真帆が即断。


「ものすごく、した」


 遥室長、静かに宣言する。


「今津乙実。

 あなたは――

 戦隊ヒロインの緩衝材として、

 唯一無二の存在よ」


 乙実、目を丸くする。


「……そ、そうですか?」


 誰よりも地味で、

 誰よりも目立たない。


 でも。


 空気が壊れそうなとき、

 一番必要な女。


 いぶし銀は、

 今日も静かに、

 戦隊を救っていた。

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