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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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512/694

全員うるさいのに、この人が一番仕事してる ――戦隊ヒロイン界のいぶし銀・今津乙実

会場は群馬県高崎市。

新幹線が止まり、駅前は妙に都会ぶっているが、少し離れると一気に地方都市の顔になる街だ。

だるま推しが異様に強く、「全国どこでも通用しそうで、実は高崎でしか成立しない」不思議な土地。

そんな駅前イベント広場に、今日も戦隊ヒロインたちが集結していた。


──そして、今日もアクが強い。


「高崎のみんなぁー!

 声出ぇへんで!

 そんなもんで元気言うとったら、河内では寝とる判定やでぇ!!」


美月の河内弁が、開始三十秒で空気を掌握する。

客席の子どもが目を丸くし、年配の男性がなぜか頷いている。


「おい美月!

 最初から飛ばしすぎや言うとるやろが!

 段取り表、何のためにあんねん!」


彩香が播州弁で割って入る。

言葉は荒いが、言っていることは正論だ。


「なんやねん彩香!

 ノリは勢いや言うとるやろ!

 細かいこと気にしすぎや!」


「勢いだけでイベント回るかい!

 現場ナメんなや!」


開始一分で軽い口論。

麗奈はその横で笑顔のまま前に出すぎ、小春はMCスイッチが入りすぎてクラブDJみたいな煽りを始める。


「ヘイヘイ高崎ー!

 今日は最高の一日にしようぜぇぇぇ!!」


音響スタッフが困惑する。

みのりは後方で腕を組み、「情報量が多すぎる…」と冷静に分析していた。


──完全に、渋滞。


その少し後ろ。

誰にも押されず、誰も押しのけず。

マイクも奪わず、声も張らず。


今津乙実は、静かに立っていた。


派手な衣装に囲まれているのに、どこか山の空気を連れてきたような佇まい。

庄内弁がまだ抜けきらない、素朴な雰囲気。

目立たない。

前にも出ない。


だが、客席の年配層が、なぜか一番先に彼女に気づく。


「……あの子、落ち着いとるなぁ」

「ええ感じや」


美月がまた勢いで話を広げすぎた瞬間、

乙実はそっと一歩前に出て、マイクを受け取る。


「……えっと、

 今日は寒い中、来てくれてありがとうごさいます」


庄内弁が、柔らかく会場に落ちる。


「高崎は初めて来たんですけど、

 空が広くて……ええとこですね」


派手な煽りもない。

オチもない。

だが、場の温度が一段下がり、整う。


彩香が小さく舌打ちする。


「……今の、ええやん」


美月も腕を組む。


「悔しいけどな、

 ああいうの、ウチには出されへんわ」


麗奈が笑いながら頷き、小春はようやくボリュームを下げる。

みのりは静かにメモを取った。


イベントはそのまま、破綻せずに最後まで進行した。


終了後、控室。


「乙実ちゃん、今日は助かったわぁ」

「ほんまや。

 おらんかったら、途中で事故っとったで」


美月が河内弁で言い、

彩香が腕を組んだまま、ぼそっと付け足す。


「……目立たんけど、

 おったら助かるタイプやな」


乙実は少し照れて、頭を掻く。


「そんな……

 ただ、邪魔にならんようにしとっただけで……」


その様子を見て、真帆が静かに言った。


「こういう人、必要なのよ。

 全員が前に出たら、組織は壊れる」


誰も反論しなかった。


派手じゃない。

叫ばない。

主張もしない。


だが──

今津乙実がいないと、今日のイベントは成立していなかった。


目立たないのに、

いないと困る女。


戦隊ヒロインという騒がしい世界で、

彼女は今日も、静かに全体を支えていた。

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