全員うるさいのに、この人が一番仕事してる ――戦隊ヒロイン界のいぶし銀・今津乙実
会場は群馬県高崎市。
新幹線が止まり、駅前は妙に都会ぶっているが、少し離れると一気に地方都市の顔になる街だ。
だるま推しが異様に強く、「全国どこでも通用しそうで、実は高崎でしか成立しない」不思議な土地。
そんな駅前イベント広場に、今日も戦隊ヒロインたちが集結していた。
──そして、今日もアクが強い。
「高崎のみんなぁー!
声出ぇへんで!
そんなもんで元気言うとったら、河内では寝とる判定やでぇ!!」
美月の河内弁が、開始三十秒で空気を掌握する。
客席の子どもが目を丸くし、年配の男性がなぜか頷いている。
「おい美月!
最初から飛ばしすぎや言うとるやろが!
段取り表、何のためにあんねん!」
彩香が播州弁で割って入る。
言葉は荒いが、言っていることは正論だ。
「なんやねん彩香!
ノリは勢いや言うとるやろ!
細かいこと気にしすぎや!」
「勢いだけでイベント回るかい!
現場ナメんなや!」
開始一分で軽い口論。
麗奈はその横で笑顔のまま前に出すぎ、小春はMCスイッチが入りすぎてクラブDJみたいな煽りを始める。
「ヘイヘイ高崎ー!
今日は最高の一日にしようぜぇぇぇ!!」
音響スタッフが困惑する。
みのりは後方で腕を組み、「情報量が多すぎる…」と冷静に分析していた。
──完全に、渋滞。
その少し後ろ。
誰にも押されず、誰も押しのけず。
マイクも奪わず、声も張らず。
今津乙実は、静かに立っていた。
派手な衣装に囲まれているのに、どこか山の空気を連れてきたような佇まい。
庄内弁がまだ抜けきらない、素朴な雰囲気。
目立たない。
前にも出ない。
だが、客席の年配層が、なぜか一番先に彼女に気づく。
「……あの子、落ち着いとるなぁ」
「ええ感じや」
美月がまた勢いで話を広げすぎた瞬間、
乙実はそっと一歩前に出て、マイクを受け取る。
「……えっと、
今日は寒い中、来てくれてありがとうごさいます」
庄内弁が、柔らかく会場に落ちる。
「高崎は初めて来たんですけど、
空が広くて……ええとこですね」
派手な煽りもない。
オチもない。
だが、場の温度が一段下がり、整う。
彩香が小さく舌打ちする。
「……今の、ええやん」
美月も腕を組む。
「悔しいけどな、
ああいうの、ウチには出されへんわ」
麗奈が笑いながら頷き、小春はようやくボリュームを下げる。
みのりは静かにメモを取った。
イベントはそのまま、破綻せずに最後まで進行した。
終了後、控室。
「乙実ちゃん、今日は助かったわぁ」
「ほんまや。
おらんかったら、途中で事故っとったで」
美月が河内弁で言い、
彩香が腕を組んだまま、ぼそっと付け足す。
「……目立たんけど、
おったら助かるタイプやな」
乙実は少し照れて、頭を掻く。
「そんな……
ただ、邪魔にならんようにしとっただけで……」
その様子を見て、真帆が静かに言った。
「こういう人、必要なのよ。
全員が前に出たら、組織は壊れる」
誰も反論しなかった。
派手じゃない。
叫ばない。
主張もしない。
だが──
今津乙実がいないと、今日のイベントは成立していなかった。
目立たないのに、
いないと困る女。
戦隊ヒロインという騒がしい世界で、
彼女は今日も、静かに全体を支えていた。




