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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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510/693

公用語は土佐弁、返事は“んだ”。――国道16号線・日本語が迷子になるファミレス

山形県鶴岡市。

山あいの限界集落から、ついに都会へ――

とはいえ東京ではない。

今津乙実が降り立ったのは、千葉市花見川区だった。


「……車多いの……信号も多いの……」


庄内弁で小さくつぶやきながら、

乙実は新しいアルバイト先の看板を見上げた。


国道16号線沿い・ファミリーレストラン。


一見すると、ごく普通。

だがこの店には、致命的な特徴があった。


店内に一歩入った瞬間、

乙実は察した。


「……ここ、普通でねぇ……」


「いらっしゃいませー!元気出していくきー!!」


フロアを支配する声。

それはバイトリーダー、神代なつめ。


千葉在住だが、

魂は完全に土佐。


「この店の公用語は土佐弁やき!

 返事は“はい”やのうて、“了解き!”や!」


乙実「……了解……き?」


みのり(厨房から顔を出して)

「最初は混乱するけど、気にしたら負けだよ」


完全に巻き込まれた。


初日の研修。


なつめ「オーダー取ったら、

 復唱して、最後に“任せちょき!”や」


乙実「……任せ……ちょき?」


なつめ「そうそう!えい感じ!」


この時点で、乙実の頭の中では

庄内弁と土佐弁が正面衝突を起こしていた。


実戦投入。


「乙実ちゃん、三番テーブル下げて!」


乙実「んだ!」


なつめ「……今のは庄内弁やき」


乙実「……あ、任せちょき……んだ」


混ざった。


厨房の空気が一瞬止まり、

次の瞬間、みのりが笑った。


「もうそれでいい気がする」


なつめ「仕事できとるき、問題ない!」


そう、問題はなかった。


言語は崩壊しているのに、

配膳は正確。

動線は無駄がない。

気配りは完璧。


店は異様なほどスムーズに回っていた。


問題が起きたのは、静かな平日夜。


日本語を真面目に勉強している

南アジア出身の留学生が、

勇気を振り絞って乙実に話しかけた。


「すみません……乙実さん」


乙実「はい、どうしたの?」


彼はメモ帳を持ち、真剣な目で言った。


「日本語の授業で、

 “ん”で始まる単語は存在しない、と習いました」


乙実「……」


「でも乙実さんは、

 返事で“んだ”と言います」


乙実「……」


「それは……

 日本語では、ないですよね?」


店内、沈黙。


みのり、肩を震わせる。

なつめ、腕組み。


なつめ「確かに標準語では無いき……」


乙実、完全に固まる。


「えっと……

 日本語……だと思うんだけど……

 山形……と……高知……が……」


留学生、真剣にメモ。


「地域融合型言語……?」


乙実「……やめてけろ……」


その後も混乱は続く。


「ドリンクバー補充お願いするき!」

「んだ!」

「返事になっとらんき!」

「んだの!」

「余計分からんき!」


だが、なぜか誰も怒らない。


常連のおじさんが笑って言う。


「言葉は分からんけど、

 この店、元気ええなぁ」


閉店後。


乙実は少し落ち込んでいた。


「……わたしの日本語、変だよの……」


なつめは即答した。


「変やない。

 生きちゅう言葉やき」


みのりも頷く。


「通じてるよ。

 それが一番大事」


乙実は少し考えて、照れながら言った。


「……んだな」


なつめ「また出たき!」


みのり「もう公式でいいんじゃない?」


こうして国道16号線沿いのファミレスは、

日本語の定義を静かに破壊しながら、今日も元気に営業中。


公用語は土佐弁。

返事は“んだ”。

でも心は、ちゃんと通じていた。


乙実は今日も胸を張って言う。


「いらっしゃいませ!

 ……んだ、空いでるき!」

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