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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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509/695

買わない、捨てない、慌てない ――乙実、都会の“当たり前”を静かに破壊する

千葉市花見川区。

閑静な住宅街にひっそりと建つ、築年数そこそこの単身者向けアパート。

その一室に、戦隊ヒロインとは思えないほど地味で静かな生活音が流れていた。


朝六時。

目覚まし時計は鳴らない。

今津乙実は、外が明るくなった気配で自然に目を覚ます。


「……今日も、晴れだの」


庄内弁がぽつりと零れる。

カーテンを少しだけ開け、天気を確認すると、無駄のない動きで布団を畳む。

敷きっぱなしにしない。

これだけで部屋の体積が増えたように見える。


乙実のワンルームは、とにかく物がない。

ベッドなし、ソファなし、ラグなし。

小さな折り畳みテーブルと座布団が一枚。

収納棚には最低限の衣類と生活用品だけ。


都会の若者が見たら、十中八九こう言うだろう。


「……引っ越し、まだ終わってないの?」


しかし乙実は違う。

これは完成形だ。


問題の冷蔵庫は、その日も静かに唸っていた。


中身はというと、


・昨日の残りの大根

・半端に余った豆腐

・見切り品の人参

・卵が三つ

・謎のタッパー(中身は煮物)


それを見て乙実は、少し考えたあと頷く。


「……三日はいけるの」


そのまま鍋を出し、包丁を握る。

迷いは一切ない。


大根は煮る。

人参は細く切ってきんぴら。

豆腐は崩して味噌汁。

卵は最後に回して、丼。


三日分の飯が、四十分で完成した。


しかも、飽きない構成。


この光景を見たら、管理栄養士が黙り、主婦が拍手し、独身男性が土下座する。


昼過ぎ。

洗濯物を干す時間だ。


乙実はベランダに出ると、洗濯物を一切ためらわず干していく。


ポイントは三つ。


・風向き

・乾きやすさ

・影の落ち方


Tシャツは裏返し、脇を風に当てる。

ズボンは二点吊り。

タオルは空間を作る。


洗濯バサミの配置が、明らかに農家仕様だった。


そこへ訪問者。


「乙実さん~!来たよ~!」


玄関が開き、館山みのりが顔を出す。


「お邪魔しまー……」


そして、部屋を見渡して固まった。


「……え?」


広い。

とにかく広い。

ワンルームのはずなのに、妙に空気が伸びている。


「なにこれ……モデルルーム?」


乙実は洗濯物を干しながら、平然と言う。


「物、あんまり要らねの。動ける方が楽だの」


みのりは床に座り、思わず呟く。


「……私の部屋より、二倍広く感じる……」


さらに衝撃は続く。


みのりがゴミ袋を見つけて言った。


「これ、今日出すやつ?」


乙実「んー……まだ使えっから」


「え?」


乙実はゴミ袋から、包装紙や箱を取り出す。


「これは、下に敷ける」

「これは、仕分け用」

「これは、畑なら苗守るのに使う」


みのり「……都会だよ?」


乙実は首を傾げる。


「都会でも、使えるもんは使えるの」


その瞬間、

“これ、捨てるの?”砲が炸裂した。


みのりは敗北を悟った。


その日の夕方。

もう一人の花見川区在住ヒロイン、土佐の突進娘・神代なつめの部屋へ。


ドアを開けた瞬間。


「うわっ」


床一面に散らばる服。

謎の段ボール。

開けっぱなしの通販箱。

ソファの上には脱ぎ捨てられたジャージ。


なつめ「そのうち片付けるき」


乙実は黙って床を見渡す。


「……今は、片付いてねの」


なつめ「ぐっ」


みのり「乙実さん、そこ突かないで!」


乙実は続ける。


「物多いと、探す時間増えるの。時間もったいねの」


なつめ「……正論やめて!」


夜。

三人で夕飯。


乙実の作った料理が並ぶ。


みのり「え、これ今日の余り物?」


乙実「んだの」


なつめ「……美味しい……悔しい……」


みのりは箸を止めて、ぽつり。


「乙実さん……都会って、便利だけどさ……」


乙実は静かに答える。


「便利だから、考えなくなるの。

でも、考えねぐなると、弱くなるの」


その言葉に、二人は黙った。


その夜。

みのりは帰り道で結論を出す。


「……乙実、戦隊ヒロイン向きじゃない」


一拍置いて。


「生きるのが上手すぎる」


花見川の静かな夜に、

都会の“当たり前”が、またひとつ否定された。

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