結論:ビーチ隼人は“面倒見の悪い良い人”
戦隊ヒロイン一の苦労人。
それが、蛯沢紗耶――源氏名「さゆり」である。
この肩書きだけ聞けば、いかにも重たそうだが、
本人はそれを前面に出さない。
イベントでは一歩引いた立ち位置。
戦闘任務では無駄口を叩かず、黙々と役割をこなす。
派手な決めポーズも、過剰なアピールもない。
だが――
そのどこか儚く、影を引きずった佇まいが、
じわじわと効いてくる。
「……なんか、気になるんよな」
「分かる。美人やけど、押してこない感じ」
客層は不思議と幅広い。
若いファンより、むしろ年配層と人生一周した系の人間に刺さる。
そう、
“分かる人には分かるヒロイン”。
そして、
その最初の重症患者が――
藤堂隼人補佐官である。
遥室長から正式に
「ビーチ隼人」
と命名されて以来、
彼は公私ともにずっと落ち着かない。
「いや、俺は別に――」
と言いながら、
紗耶の差し入れが妙に豪華になり、
体調管理に口を出し、
出番表を何度も確認する。
だが問題はそこではない。
百戦錬磨の蛯沢紗耶は、
そんなビーチ隼人補佐官を――
完全に子ども扱いしていた。
「補佐官、それ以上言うと怒られますよ」
「はいはい、そこまでです」
「それ、余計なお世話です」
軽く微笑みながら、
ピシッと線を引く。
そのたびに隼人補佐官は、
「……あ、はい」
と素直に引き下がる。
この光景を見た遥室長は、
一度だけ静かに言った。
「……なるほどね」
そして例の罰金制度が発動した。
「隼人くんが紗耶さんを“さゆり”って呼んだら、
罰金千円ね」
理由は言わない。
だが全員察した。
この罰金は、
ヒロ室のおやつの原資となる。
結果どうなったか。
・プリンが増えた
・ロールケーキが出た
・謎の高級マカロンが並んだ
ヒロイン達は学習する。
「呼ばせたら勝ち」
「ビーチ補佐官、いかに油断させるか」
美月と小春は特に悪ノリがひどい。
「なあ補佐官、紗耶って下の名前なんやったっけ?」
「八戸時代のあだ名とか、ないんですか~?」
だがビーチ隼人も学習していた。
「その手は桑名の焼きハマグリだ」
回避。
回避。
徹底回避。
この子供じみた心理戦は、
いつしか戦隊ヒロインプロジェクトの名物となる。
一方その頃。
当の紗耶はというと、
その騒動を一歩引いたところから眺めている。
(……不思議な場所だな)
かつては、
生きるために必死だった。
流されるまま、選択肢もなく。
だが今は違う。
自分で立って、
自分で選んで、
自分で前に進んでいる。
ビーチ隼人補佐官は確かに面倒見が悪い。
空回りするし、気が利かない。
判断も遅い。
だが――
人としては、悪くない。
紗耶はそう結論づけていた。
ある日、ぽつりとこう言った。
「補佐官って……
本当は優しい人ですよね」
その一言で、
ビーチ隼人補佐官は固まった。
「……え?」
「でも、面倒を見るのは向いてないです」
遥室長が後ろでうなずいた。
「それな」
こうして、
戦隊ヒロインプロジェクト内での
公式見解が固まる。
結論:
ビーチ隼人は“面倒見の悪い良い人”。
そして紗耶は、
過去を誰かに清算してもらうのではなく、
自分の足で、新しい人生を切り拓いていく。
ヒロ室には今日も笑い声が響く。
おやつは豪華。
罰金箱は満杯。
だがその中心で、
静かに、確かに――
蛯沢紗耶は前に進んでいた。
次のイベントも、
次の任務も、
すべては自分の選択で。
ビーチ隼人が右往左往するのを横目に、
彼女は今日も穏やかに微笑む。
――それで十分だった。




