差し入れ一箱で世界が燃えた日――ビーチ隼人、露骨すぎて炎上
地方イベントの控室は、表向きは平和だった。
だがその空気の下には、子供じみた冷戦が静かに、しかし確実に続いていた。
発端は言うまでもない。
ビーチ隼人補佐官問題である。
「今日も空気ピリついとるなぁ……」
小春が小声で言うと、
美月が腕を組んで鼻で笑った。
「当たり前や。
あっちは“千円罰金戦争”で一回も勝ててへんからな」
みのりが理知的に補足する。
「冷戦とは、直接衝突せず、嫌がらせを積み重ねる状態を指します」
「今まさにそれや」
■運命の差し入れ到着
そこへ、スタッフが声を上げた。
「補佐官から差し入れでーす!」
一同の視線が、箱に集中する。
「来た……」
「何持ってきよったんや……」
箱が開く。
まず、美月・小春・みのりの前に置かれたのは――
あたりMだのクラッカー。
「……は?」
美月が箱を覗き込み、静かに言った。
「これ……駄菓子棚の一番下のやつやん」
小春も固まる。
「……イベントの差し入れで、これ……?」
みのりは冷静に分析した。
「原価は推定百数十円。保存性のみが取り柄ですね」
「別にいらんわ~」
美月は箱を押し返した。
■中立国、満足
一方、香澄と詩織の前に置かれた箱。
開けると、
そこそこ有名な洋菓子店のスイーツ。
「わぁ……!」
詩織の目が輝く。
「美味しい……幸せ~」
香澄も頷く。
「これは普通に嬉しかね」
この時点で、格差はすでに明確だった。
■そして、問題の一箱
最後に、
蛯沢紗耶の前に置かれた箱。
――デパ地下仕様。
包装紙からして違う。
リボン付き。
紙袋も分厚い。
箱を開けた瞬間、
控室の空気が一段階下がった。
「……露骨やな」
美月が呟く。
「……あからさまですね」
みのりもため息。
紗耶は慌てる。
「えっ、あの……私だけ……?」
「気にせんでええよ」
香澄がフォローするが、
美月の目は完全に据わっていた。
■美月、反撃開始
「なぁ、ビーチさん」
美月がにこやかに近づく。
「その差し入れ、誰が選んだん?」
「……さぁ~?誰でしょう?」
「へぇ~。
じゃあさ、さゆ……」
「その手は桑名の焼きハマグリ!」
即座に返される。
「チッ!」
「早すぎるわ!」
「惜しい!」
■隼人、余裕の防御
「学習したんだ」
隼人は静かに言った。
「誘導尋問には乗らない」
「くっ……!」
美月は歯ぎしり。
「ほんまにムカつくわこの男……」
■炎上、本人に届く
紗耶は困り果てていた。
「……あの、皆さんで分けても……」
「それはあかん!」
美月が即答。
「それやったら、差別を認めたことになる」
「理屈がおかしい!」
■冷戦、さらに深まる
結局、
紗耶の豪華スイーツは
皆の視線を浴びながらそのまま残された。
詩織だけがぽつり。
「……甘いものは、心を癒しますよね……」
誰も否定しなかった。
■エピローグ
控室を出た後、
隼人は一人で呟いた。
「……差し入れ一つで、ここまで荒れるとは……」
その背後で、美月がぼそり。
「次はもっとええもん期待しとくで、ビーチさん」
戦争は、
まだ終わりそうになかった。




