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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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497/705

言うなと言われるほど、口が勝手に動く――ビーチ隼人・名前縛り地獄絵図

ヒロ室に奇妙な空気が流れ始めたのは、掲示板でも会議でもなく、お昼休みの雑談からだった。


発端は、遥室長の何気ない一言である。


「そうそう……これ、まだ正式な通達じゃないんだけどね」


穏やかな駿河弁、やわらかい笑顔。

だがその場にいた真帆、琴音、みのりは、全員が“これは来る”と察知した。


「藤堂補佐官が、もし今後……蛯沢さんのことを“さゆり”って呼んだら」


一拍。


「一回につき千円、フロントに入れるってことで」


「え?」

「はい?」

「……千円?」


遥室長は首を傾げて付け足す。

「口コミでいいから、広めといてくれる?」


それは“お願い”の形をした布告だった。


■口コミ、秒速で拡散する


その五分後。


「聞いた?ビーチ補佐官、名前縛りらしいで」

「“さゆり”って言ったら千円やて」

「え、マジで?罰金制!?」


美月が尾ひれをつける。

「しかも回数制限ナシらしいで」


彩香が煽る。

「累積型?破産するやつやん」


小春はもう計算している。

「一日三回言ったら……」


「言わせる気満々やん!」

隼人はその場で崩れ落ちた。


■第一波:呼び方が崩壊する


午後のミーティング。


資料を配る紗耶が近づいてくる。


「こちら、今日の進行表です」


「ありがとう……ええと……」


隼人の脳内では、警報が鳴り響いていた。


(言うな、言うな、絶対言うな)


「……蛯沢……さん」


「はい」


後方で、真帆が無言で小さな封筒を机に置く。

美月が囁く。


「今のセーフ?」


「ギリやな」

「でも“蛯沢”って呼び慣れてないのが怪しい」


隼人、汗だく。


■第二波:監視が娯楽になる


いつの間にか、監視がイベント化していた。


「今、“紗”って口動いた」

「“ゆ”の準備してたやろ」

「千円準備しとこか」


「お前ら仕事しろ!!」


詩織と陽菜は首を傾げる。


「ねえ……“ビーチ”って何?」

「海?」

「バカンス?」


「説明すんな!!」

美月と彩香が同時に止めた。


■第三波:紗耶、逆に気を遣う


当の紗耶はというと、申し訳なさそうに小声で言った。


「……私、気にしませんから」


その瞬間。


遥室長の笑顔が一段階だけ深くなる。


「うん、紗耶ちゃんは何も悪くないよ」


その“ちゃん”に、隼人の心拍数が跳ね上がる。


(今の呼び方、セーフだよな!?)


■副作用:ヒロ室のおやつが進化する


数日後。


ヒロ室フロントの休憩スペースに、異変が起きた。


・有名パティスリーのプリン

・限定マカロン

・なぜか高級フルーツサンド


「……増えてない?」

隼人の声が震える。


真帆が即答する。

「罰金」


「俺、そんなに言った!?」


「言いかけました」

「言いそうになりました」

「目が“さゆり”って言ってました」


「意味わからん!」


■最終局面:本人登場


ある日の夕方。


隼人が、つい口を滑らせた。


「さ……」


一瞬、世界が止まる。


「さ……」


「さ……や……さん!」


歓声。


「回避!」

「今のはセーフ!」

「惜しかったな!」


隼人は机に突っ伏した。


「俺、何の仕事してるんだっけ……」


その背後で、紗耶が小さく微笑む。


「……大変ですね」


遥室長は紅茶を一口飲み、穏やかに締めた。


「学習って、反復が大事だからね」


こうして今日もまた、

ビーチ隼人の罰金は積み上がり、

ヒロ室のおやつは豪華になり続ける。


そして誰も、

この“名前縛り”がいつ終わるのか知らない。

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