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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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494/705

みちのく最終兵器、川崎に降臨 ――拍手が一拍遅れて本気になる女・蛯沢紗耶

川崎駅直結。

 巨大なガラス屋根の下に広がる、某・大型ショッピングモールのイベント広場。


 週末の昼下がり。

 買い物帰りの家族連れ、駅利用の通行人、なぜか最初から最前列を陣取っている謎のオジサン集団。

 いつもの戦隊ヒロインイベントより、年齢層がやや高い。


 ステージ袖で、蛯沢紗耶は静かに深呼吸していた。


「……大丈夫。ちゃんとやろう」


 緊張はしているが、取り乱さない。

 それが紗耶だ。


 MCの西里香澄が、マイクを構える。

 いつもより少し低め、落ち着いた声。

 語尾にほんのり熊本弁が混じる、独特の安心感。


「それでは皆さま〜。

 本日は特別に、新しいヒロインをご紹介します〜」


 ざわり、と空気が動く。


「青森県は八戸からやってきた、

 みちのく最終兵器――」


 そこで一拍。


「蛯沢紗耶さんの、イベント初登場です〜!」


 音楽。

 照明。


 ゆっくりとステージに現れたのは、

 高身長、色白、サックスブルー寄りのワンポイントが入ったシンプルな衣装。


 長い睫毛。

 控えめな笑顔。

 どこか、少しだけ寂しげな表情。


 一瞬、歓声が遅れる。


「……あれ?」


 次の瞬間。


「おお……」

「きれいやな……」

「落ち着いとる……」


 ドッと、遅れて拍手。


 紗耶は一礼し、マイクを受け取る。


「本日は、ありがとうございます。

 青森県八戸市出身の、蛯沢紗耶です」


 声が、静かだ。

 だが、よく通る。


「まだ不慣れな点も多いですが、

 一つ一つ、丁寧に頑張ります」


 この時点で、

 前列の高齢者層が完全にロックオンされた。


「今どき珍しいな」

「ちゃんと挨拶できる子や」

「目ぇ見て話すやん」


 香澄が、ここで追撃を入れる。


「紗耶さん、今は川崎区在住なんですよね〜?」


 次の瞬間。


「おっ!?」

「川崎!?」

「地元やん!」


 サックスブルーのTシャツを着た、

 澪後援会のおじさん連中が一斉に反応。


「青森から川崎!?」

「苦労しとるんやろな……」

「応援しないとね……」


 誰も事情は知らない。

 だが、勝手に察して、勝手に惚れる。


 紗耶は少し困ったように微笑む。


「はい。川崎は……住みやすい街です」


 その一言で、

 後援会のおじさん三名、無言でうなずく。


 トークが進む。


 年齢を聞かれても、

 騒がず、照れず、落ち着いて答える。


 質問にも、

 言葉を選び、間を置き、丁寧に返す。


 その様子を、

 美月・彩香・麗奈・澪・みのりが袖から見ていた。


「……なんか」

「私らと真逆やな」

「キラキラしてへんのに、目ぇ離せん」


 みのりがぽつり。


「……安心します」


 それが、答えだった。


 派手なリアクションはない。

 決めポーズも控えめ。

 だが、場の空気が穏やかに整っていく。


 イベント後半。


 高齢の女性が手を挙げた。


「あなた……無理せんでね」


 紗耶は一瞬、言葉に詰まり、

 それから、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 拍手。


 この日、

 蛯沢紗耶は“爆発的な人気”を得たわけではない。


 だが――

 確実に、深く刺さった。


 イベント終了後、

 控室で香澄が言う。


「紗耶さん、

 あんた“後から効いてくるタイプ”ばい」


 紗耶は首を傾げる。


「……そうですか?」


「そうたい。

 気づいたら、忘れられんやつ」


 後援会のおじさんは、

 帰り際にもう一度ステージを振り返っていた。


「……ええヒロインやったな」


 みちのく最終兵器。

 派手ではない。

 だが、静かに戦線を広げる。


 蛯沢紗耶――

 苦労人オーラが、

 この日、川崎で“武器”になった。

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