人生ハードモード、家電イージーモード未満 ――紗耶と文明の逆襲
蛯沢紗耶。
戦隊ヒロイン一の苦労人。
父の蒸発、借金、奨学金、夜の世界――
人間関係も人生も、だいたい修羅場で鍛え上げられてきた女。
だが。
「……これ、止まらないんですけど……」
洗濯室に響く、ピーピーピーという不吉な電子音。
最新式ドラム洗濯機の前で、紗耶は完全にフリーズしていた。
「停止押すと回るんです」
「もう一回押すと閉じ込められます」
「洗濯機に幽閉されるな」
美月が即ツッコミを入れる。
そこへ、大宮麗奈がスッと並ぶ。
「大丈夫。私も分からない」
「最悪の安心感や!」
生活力ワーストツートップ、ここに揃い踏みである。
蒼牙2000・改が静かに起動する。
「分析結果:蛯沢紗耶、精神耐久SS、対機械適応力E」
「Eはやめてください!」
そのとき――
ドアが勢いよく開いた。
「なーにやってんだっぺ?」
長靴、ジャージ、袖まくり。
畑帰りそのままの格好で現れたのは、農民にして魔法少女・唯奈。
「紗耶さん、洗濯機にビビってっと、洗濯にナメられっぞ」
「洗濯機に……?」
「長押しだっぺ。ほれ、ここ」
唯奈が乱暴にボタンをぐいっと押す。
――ピタッ。
洗濯機が沈黙した。
「……止まった」
紗耶の目が丸くなる。
「唯奈ちゃん……どうしてそんなに詳しいの?」
「は? 壊れっと困んだっぺ。
農家で機械分かんねぇとか、死活問題だがんな」
「説得力が土の匂いする!」
さらに惨劇は続く。
「スマホが……字が……でかい……」
「あー、それ老眼モードだっぺ」
「老眼!?」
「違ぇわ、アクセシビリティだ。
変なとこ触ったんだっぺ?」
唯奈はスマホをひったくるように操作する。
「ほれ、戻った。
ついでに変な通知も切っといた。
こんなの放っとくと電池すぐ死ぬぞ」
操作時間、10秒。
麗奈が呆然とする。
「……私、それ半年気づかなかった」
「半年!?
よく生きてたな、おめぇ」
「唯奈、口が辛辣!」
その後も地獄は止まらない。
・エアコンを「寒いから」で暖房28度
・IHを「光って怖い」で封印
・電子マネーを「お金消えた感じ」で拒否
・アラーム20個設定して全部無視
真帆が冷静に聞く。
「紗耶さん、これまでどうやって生活を……」
「……気合です」
「気合万能説やめなさい」
隅で聞いていた隼人補佐官――
ビーチ隼人がポツリ。
「……俺、紗耶の前だと一番まともだな」
「それ基準が低すぎる!」
蒼牙2000・改が追撃する。
「提案:蛯沢紗耶に生活基礎再教育プログラム」
「名前がロボット実験なんですよ!」
だが、紗耶は少し照れて笑った。
「……でも、教えてもらえるの、嬉しいです。
分からなくても、今までは聞けなかったから」
一瞬、場が静かになる。
「……そういうとこだぞ」
「評価上がるの」
美月が肩をすくめる。
「しゃーないな。洗濯はウチが見る」
「料理は私」
「説明書係、私やる」
唯奈は腕を組んで頷いた。
「ま、機械なんざ慣れだっぺ。
壊しゃ覚えんだからよ」
「壊す前提やめて!」
こうして、
人生は修羅場、文明は初心者の蛯沢紗耶は、
茨城弁とツッコミに囲まれながら、少しずつ生活力を取り戻していく。
なお――
紗耶と麗奈は正式に《デジタル要注意コンビ》として登録され、
蒼牙2000・改の監視対象に追加された。
次に止まるのは、
たぶん電子レンジである。




