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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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491/710

一番後ろめたい相手には一番まともになる男 ――今日も元気にビーチ隼人

戦隊ヒロインプロジェクト推進室、通称ヒロ室。

 その朝は、いつもより一段と空気がざわついていた。


「おはようございます、ビーチさん!」


 元気よく挨拶したのは美月だった。

 続けざまに彩香が追い打ちをかける。


「今日も潮風、強そうやねえ、ビーチ補佐官」


「……おはよう」


 藤堂隼人補佐官は、もはや訂正する気力もなく、静かに会釈する。

 この男、かつては百戦錬磨の調整屋。大臣相手でも一歩も引かない切れ者だったはずだが、今や完全に**“ビーチ”**である。


「おいビーチ、コーヒー飲むか?」


 波田顧問まで混ざってくる始末だ。


「結構です……」


 その瞬間だった。


「おはようございます」


 少し低めで、落ち着いた声。

 蛯沢紗耶がヒロ室に入ってきた途端、空気が変わった。


 隼人補佐官の背筋が、スッと伸びる。


「おはよう、蛯沢さん。今日のスケジュールだが――」


 声のトーンが違う。

 姿勢が違う。

 何より、一切ふざけない。


 それを見たヒロインたちが、顔を見合わせた。


「……あれ?」

「……ビーチさん、普通やない?」

「なんで紗耶さんの前だけ、官僚に戻っとるん?」


 美月が腕を組んで睨む。


「なあ彩香。ウチらの前では“ビーチさん”やのに、紗耶さんの前では“藤堂補佐官”やで」


「露骨すぎやろ。逆に気持ち悪いわ」


 蒼牙2000・改が低い電子音声で告げる。


「分析結果:罪悪感は人を誠実にします」


「誰が罪悪感や!」

 隼人補佐官が思わずツッコむが、誰も聞いていない。


 一方の紗耶は、その様子を少し離れたところから見て、困ったように微笑んでいた。


「……あの、私、何か変ですか?」


「いやいや!」

 真帆が即座に否定する。


「変なのはビーチさんです」


「真帆さん!」


「名前で呼ばないでください、ビーチさん」


 完全包囲網である。


 しかし、当の隼人補佐官は、紗耶に対してだけは終始淡々としていた。

 業務連絡、確認事項、注意点――どれも丁寧で、距離感も完璧。


 昼休憩のとき、紗耶がぽつりとつぶやく。


「藤堂さんって……思ってたより、ちゃんとしてますよね」


 その一言で、周囲が凍った。


「ちゃんとしてる……?」

「ビーチが……?」

「……奇跡か?」


 隼人補佐官は、胃のあたりを押さえた。


「……それは、誤解だ」


「でも、線をちゃんと引いてくれる人だなって」


 紗耶はそう言って、視線を落とす。


「私は、過去のことで誤解されることが多いので。

 変に踏み込まれないのは、正直……助かります」


 その瞬間、隼人補佐官は完全に言葉を失った。


 ――ああ、だからか。


 一番後ろめたい相手。

 一番、誤解されたくない相手。

 だからこそ、誰よりもまともに接してしまう。


「……ビーチさん、黙りましたね」


「黙ると余計に怪しい」


「やっぱりビーチやな」


 好き放題言われる中、紗耶は少しだけ笑った。


「でも……ありがとうございます。ビーチさん」


「……今、なんて?」


「え?」


 室内が静まり返る。


「今……“ビーチさん”って……」


「あ、すみません。みんなそう呼んでるから、つい」


 つい。


 その一言に、全員が顔を見合わせ、次の瞬間――


「つい!?」

「無意識で!?」

「これは公式呼称やな」


 波田顧問が腹を抱えて笑った。


「決まりだな。隼人、お前はもう正式に“ビーチ”だ」


 隼人補佐官は、天井を見上げた。


 ――俺は、何をしにこの組織に来たんだ。


 だがその横で、紗耶は静かに前を向いていた。

 過去に引きずられず、今を積み重ねるために。


 そして今日も、

 一番まともなビーチ隼人は、

 誰よりも不憫に、誰よりも真剣に、ヒロ室で働いているのだった。

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