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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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490/737

全員一致でビーチ呼ばわり――苦労人ヒロインと補佐官の黒歴史

蛯沢紗耶の戦隊ヒロインプロジェクト参加は、

決定そのものよりも周辺の空気がやたらと騒がしかった。


原因はひとつ。


藤堂隼人補佐官である。


いや、正確に言えば——

**「ビーチ隼人」**である。


「おはようございます、ビーチさん」


朝のヒロ室フロント。

安岡真帆が、書類を差し出しながら一切の感情を込めずに言った。


「……おはようございます」


隼人は、もう訂正しなかった。

訂正しても無駄だと、悟っていた。


通りすがりの美月が、にやにやしながら言う。


「なぁビーチ補佐官、

 今日も日焼け対策せんでええん?」


「……美月さん、君は静かに」


「ビーチさん、怒ったらあかんで。

 海は広いんやからなぁ」


完全におもちゃである。


波田顧問に至っては、廊下ですれ違いざまに、


「おうビーチ。

 川崎の潮はまだ引いてねえのか?」


と、肩を叩いていった。


誰一人、止めない。


極めつけは地下。


ドリームトラクター「蒼牙2000・改」の駐車スペースである。


「おはようございます、蒼牙2000・改」


隼人が声をかけると、

機械とは思えぬほど落ち着いた声が返ってきた。


「おはようございます、ビーチさん。

 川崎通いは程々にしないと、

 体調管理に支障が出ますよ」


「……」


隼人は、その場で天井を見上げた。


「……誰が教えた?」


「さぁ……

 情報の出所は複数考えられますが、

 主に人間関係の“緩み”でしょうか」


AIにまで説教される日が来るとは思っていなかった。


——そんな騒動の中心とは対照的に。


紗耶本人は、驚くほど静かに、そして着実に現場に溶け込んでいた。


戦闘訓練初日。


「え、紗耶さん動き、速くない?」


誰かが呟いた。


中学までバスケットボールをやっていたという彼女は、

長い手足を無駄なく使い、

重心移動も自然で、無理がない。


「元々、走るのは好きでした」


照れくさそうに笑う。


年下のヒロインが転びそうになると、

さっと手を差し伸べる。


「大丈夫?

 焦らなくていいよ」


その声は、柔らかく、押しつけがましくない。


イベントリハーサルでも同じだった。


「人前、大丈夫?」


と聞かれて、紗耶は少し考えてから答えた。


「緊張はしますけど……

 嫌いじゃないです」


ステージに立った彼女は、

決して派手ではないが、

北国出身らしい色白の肌と、

どこか寂しげな表情が、不思議な哀愁を漂わせていた。


「……今までにいないタイプね」


遥室長が、小さく呟く。


真帆も腕を組んだまま、頷いた。


「目立とうとしないのに、

 目が行くタイプですね」


二人とも、当初の懐疑は影を潜めていた。


隼人補佐官——いや、ビーチ隼人も、

少し離れた場所から様子を見ていた。


「どう思いますか?」


真帆に聞かれて、彼は一瞬だけ言葉を選び、


「……現場に必要な人材だと思います」


とだけ答えた。


その言い方に、遥室長が一瞬だけ目を細める。


「ビーチさんにしては、

 まともな評価なのら」


「……そろそろ、その呼び方を」


「当分無理なのら」


即答だった。


だが。


紗耶が年下ヒロイン達の相談に乗り、

静かに場をまとめ、

イベントを無事に終わらせた帰り道。


遥室長は、ぽつりと呟いた。


「……あの子、強いね」


真帆も小さく息をつく。


「ええ。

 どん底を知ってる人の立ち方です」


その評価を聞いていた隼人補佐官は、

胸の奥で、ようやく少しだけ肩の力が抜けた。


——なお。


その日の夕方、廊下で再び蒼牙2000・改に呼び止められる。


「ビーチさん」


「……はい」


「彼女は、ここでちゃんと輝けそうですね」


「……ああ」


「では、余計な行動は慎んでください」


「……努力します」


その様子を見ていた美月が、ぼそり。


「なぁ、

 戦隊ヒロインで一番立場弱いん、

 ビーチ補佐官ちゃう?」


誰も否定しなかった。


こうして。


戦隊ヒロイン一の苦労人・蛯沢紗耶は、

静かに、確実に信頼を積み上げていき。


一方で、

藤堂隼人補佐官は、

全方面から“ビーチ”と呼ばれ続ける日々を

しばらく送ることになるのであった。


——人生、

波に乗る人もいれば、

波打ち際で正座させられる人もいる。


それが、戦隊ヒロインプロジェクトである。

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