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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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489/745

合格通知は一瞬、修羅場は一晩――ヒロイン誕生とビーチ隼人の夜

ヒロ室の面談室は、妙に静かだった。

午後三時。陽の入り方がちょうどよく、ガラス越しの新橋の街が無駄に落ち着いて見える。


テーブルの向こうに座るのは、蛯沢紗耶。

背筋は伸び、声は落ち着き、目はまっすぐ前を向いている。


遥室長と安岡真帆は、正直なところ「身構えて」いた。

経歴が経歴だ。

どこかで言い訳が入るか、話を濁すか、涙で押し切るか——そういう展開を、二人とも想定していた。


だが。


「父がいなくなってから、家計は一気に傾きました。

 大学には通い続けたかった。でも、生活費は待ってくれなかったです」


紗耶は、淡々と話した。

仙台。奨学金。アルバイト。国分町。

転げ落ちるように生活が崩れていったことも、ホストにハマったことも、借金のことも、川崎に流れ着いたことも。


全部、包み隠さず。


「それでも……」


一拍置いて、紗耶は少しだけ声を強くした。


「ずっと、アイドルに憧れていました。

 人前に立つのが、嫌いじゃなかったんです。

 もし、ここで……もう一度やり直せるなら。

 今度は逃げずに、ちゃんと輝きたいと思っています」


その瞬間。


「よし、合格だ」


波田顧問が、即答した。


真帆と遥室長が同時に顔を上げる。


「えっ、今のだけで!?」

「ちょ、ちょっと顧問、それは……」


だが波田顧問は腕を組み、べらんめえ調で言い切った。


「最近よ、キラキラした子が多い。

 それはそれでいい。国の看板だからな。

 だがよ、どん底を知ってる人間は強え。

 転んだ時に、立ち上がり方を知ってる」


紗耶を見る。


「ここは大所帯だ。

 一人くらい、人生の泥を全部踏んできた奴がいてもいい。

 いや、必要だ」


沈黙。


真帆は腕を組み直し、少しだけ視線を逸らした。


「……まぁ、お手並み拝見、ですね」


遥室長も頷いたが、表情はまだ硬い。


「……仕事としては、理解しますけどね」


紗耶は深く頭を下げた。


その夜。


港区某所、藤堂隼人補佐官宅。


昼間の修羅場は、まだ終わっていなかった。


「……で?」


遥室長が、洗濯物を畳みながら言った。

声は静か。静かすぎる。


「オンザビーチは、スーパー銭湯だったんだっけ?」


「……はい」


「で、名刺は?」


「……マッサージ師さんの」


「川崎の?」


「……はい」


次の瞬間。


バサッ!


畳まれていたワイシャツが、隼人の顔に投げつけられた。


「隼人くんねぇ!!

 あんた、いい加減にしなさいよ!!

 港区で半同棲しといて、川崎で“ビーチ”って何なのら!!」


完全に駿河弁MAX。


「ソープランド行って、

 スーパー銭湯って言い張る官僚、初めて見たのら!!」


「いや、その、説明の順番が——」


「順番の問題じゃない!!」


ドン!


テーブルを叩く音。


「今日からあんたはね、ビーチ隼人なのら!!

 反省するまで、夜の外出禁止!!

 あと洗濯担当、風呂掃除、ゴミ出し全部!!」


「全部!?」


「全部!!

 ついでに明日からヒロ室でも“ビーチさん”って呼ばせるから覚悟しなさい!!」


翌日。


ヒロ室フロント。


「おはようございます、ビーチさん」


真帆が、無表情で言った。


「……おはようございます」


「ビーチさん、書類ここ置いときますね」


「ビーチさん、会議五分前です」


完全に定着していた。


廊下の向こうで、美月が小声で囁く。


「なぁ彩香、

 ビーチ隼人って、響きだけ聞いたら陽キャやのに、

 実物めっちゃションボリしてへん?」


「そらそうやろ」


その頃、面談室の前。


紗耶は、静かに深呼吸していた。


新しい人生が始まる。

笑われるかもしれない。

疑われるかもしれない。


それでも。


扉の向こうから聞こえる、

ドタバタと、怒鳴り声と、どうしようもない空気。


(……ここ、思ってたより大変そう)


だが、紗耶は小さく笑った。


(でも、嫌いじゃない)


こうして。


戦隊ヒロイン一の苦労人・蛯沢紗耶は、

拍子抜けするほど豪快に、そして騒がしく

ヒロインの世界へ足を踏み入れたのだった。


——なお、

この日からしばらくの間、

藤堂隼人補佐官は

公式・非公式問わず

**「ビーチさん」**と呼ばれ続けることになる。


本人の名誉のために言っておくが、

それはすべて——

家庭内処分である。

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