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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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尻に敷かれた男が、優しさに転びかける夜 ――蛯沢紗耶・修羅場編プロローグ――

藤堂隼人は、気づいてしまった。


それはまずい種類の「気づき」だった。


川崎・堀之内の高級店「オンザビーチ」に、

理由をつけて通う回数が増えていることに。


「仕事の合間の気分転換」

「たまたま川崎に用事があった」

「今日はたまたま時間が空いた」


言い訳の引き出しだけは、霞ヶ関仕込みで無尽蔵だった。


そして――

彼が毎回、迷いなく指名する名前。


さゆり。


国分町で出会い、

忘れたはずなのに、川崎で再会した女性。


清楚で、控えめで、

こちらを立てるような言葉遣い。


「お仕事、お疲れさまでしたね」


その一言が、

新橋でも自宅でも決して聞けない響きを持っていた。


隼人は、恋人……いや、

半同棲相手である遥室長に不満があるわけではなかった。


仕事ができて、判断が早く、気配りも完璧。

ただし――

家でも職場でも、常に主導権は遥室長。


「隼人くん、それ後でやって」

「隼人くん、そこ違うら」

「隼人くん、ちゃんと考えた?」


尻に敷かれている自覚はある。

だが、それはそれで平和だった。


――平和、だったはずだ。


「さゆり」は違った。


「すごいですね」

「大変なお仕事なんですね」

「私なんて、全然ですよ」


その健気な言葉と、

どこか寂しげな目線。


八戸育ち特有の、

控えめで、人の話を遮らない距離感。


隼人の心は、

ゆっくり、だが確実に溶けていった。


一方の「さゆり」も、

隼人を“数多くいる客の一人”として扱いきれなくなっていた。


だが――

余裕など、どこにもない。


借金は減らない。

過去は消えない。

明日も仕事はある。


だからこそ、

彼女は“余計な期待”をしないようにしていた。


それでも、

「月白」の外で食事をするようになった頃から、

関係は確実に変質していく。


桜本のコリアタウンにある高級焼肉店。

老舗のイタリアン。。。


人目を避け、

仕事の話はしない。


その夜、

さゆりは、ぽつりと言った。


「……ねぇ」


「私、本当は」


少しだけ、言葉を探してから。


「蛯沢紗耶って言うの」


隼人は、黙って頷いた。


そして、

中学生の時の話が始まった。


水道局に勤めていた父。

突然の借金。

蒸発。


家計が崩れ、

進学のために背負った奨学金。


仙台で、

生きるために選んだ仕事。


ホストにハマった自分の弱さ。

大学中退。

増え続ける借金。


淡々と語るその声は、

泣いていなかった。


――だからこそ。


隼人の方が、

先に涙をこぼした。


「……すみません」


紗耶は、驚いて、

すぐに優しく笑った。


「どうして、あなたが泣くんですか」


そう言って、

ハンカチを差し出す。


フォローされているのは、

明らかに隼人の方だった。


「……私、こういうの慣れてますから」


その一言で、

隼人は完全に落ちた。


一方――

新橋。


遥室長は、多忙を極めていた。


会議、出張、調整、国会対応。

隼人のことを細かく気にする余裕はない。


……はずだった。


だが、

帰宅時間。

スマホの置き方。

微妙なテンポのズレ。


「……あれ?」


鋭い女の勘は、

まだ何も確定していない“違和感”を拾い上げる。


遥室長は、

静かにコーヒーを飲みながら思った。


(……何か、始まってるわね)


この時点では、

まだ嵐は来ていない。


だが確実に、

地獄の入口の扉は、きしみながら開き始めていた。

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