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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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484/774

牛タンのあとに、人生が少し曲がった夜 ――国分町・出会い編――

その頃の藤堂隼人は、まだ「補佐官」でも「戦隊」でもなかった。

霞ヶ関の一角で書類と根回しに追われる、よくいる官僚の一人である。


仙台出張は、正直に言えば“ご褒美”だった。

打ち合わせは昼過ぎに終わり、夜は完全フリー。

駅前で牛タン定食を食べ、麦飯をおかわりし、テールスープに深くうなずいた時点で、隼人の脳内はすでに半分オフになっていた。


「……さて」


ホテルに直行するには、まだ早い。

かといって、真っ直ぐ帰るほど若くもない。


気がつけば彼の足は、東北一の歓楽街――国分町へ向いていた。

意思というより、慣性である。


無料案内所の中は明るく、妙に親切だった。

説明は簡潔、料金明瞭、強引さなし。

官僚的に言えば「制度設計が優秀」だった。


数分後、隼人はファッションヘルス店の個室で、所在なさげにソファへ腰を下ろしていた。


ドアが開く。


現れたのは、思っていた“国分町らしさ”とは違う女性だった。


手足が長く、驚くほど色白。

派手な化粧でもなく、声も静か。

源氏名は――さゆり。


「はじめまして。さゆりです」


それだけで、なぜか胸の奥が、すっと静かになった。


華やかさはない。

だが、整いすぎていない分、現実の温度があった。


隼人はその瞬間、

「あ、これは長引くな」

と、なぜか冷静に理解してしまった。


会話は取り留めもなかった。

仙台の話、雪の話、青森の話――

さゆりは自分のことを多く語らなかったが、聞き上手だった。


ただ一つ、時折見せる“間”があった。

笑顔の直前に、一拍だけ空く沈黙。


官僚の勘は、そういうものを見逃さない。


(この人、たぶん――)


と、そこまで考えて、隼人は思考を止めた。

勝手に踏み込むのは野暮だ。


別れ際、さゆりは深く頭を下げた。


「今日は、ありがとうございました」


その言い方が、あまりに“普通”で、

それが逆に、隼人の心に残った。


翌月の仙台出張。

隼人は迷わず、同じ店を指名した。


「さゆりさん、いますか」


店員が一瞬、にやりとしたのを、彼は見逃さなかった。


再会したさゆりは、前回と何一つ変わっていなかった。

いや、正確には――

“変わらないようにしている”ことが、少しだけ伝わってきた。


それが、なぜか可笑しかった。


三度目、四度目。

出張のたびに、隼人は国分町へ足を運んだ。


会話は増えたが、踏み込みすぎない。

距離は縮まるが、線は越えない。


二人の間にあったのは、

恋でも、仕事でもない、

妙に居心地のいい“中間地帯”だった。


ある夜、別れ際に、隼人はぽつりと言った。


「……無理、しすぎないでくださいね」


さゆりは一瞬だけ驚いた顔をして、

それから、少し困ったように笑った。


「……ありがとうございます」


その返事が、

“言われ慣れていない人のもの”だったことを、

隼人は見逃さなかった。


後に彼は、この出会いを振り返ってこう思う。


――あの夜は、人生が大きく変わったわけじゃない。

――ただ、ほんの少し、傾いただけだ。


だが、その“ほんの少し”が、

やがて戦隊ヒロインという、とんでもない場所へ繋がるとは、

この時の二人は、まだ知らない。


国分町の夜は、今日も普通に更けていった。

牛タンの匂いと、人の人生を、同じ速度で飲み込みながら。

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