真実を知る勇気、知らない優しさ ――そして即却下されるDVD(デーブイデー)プレーヤー――
新橋ヒロ室のミーティングスペースは、
前代未聞の事態に包まれていた。
――迫田ツインズ、意見割れ事件。
これまで完全同期生物として扱われてきた澄香と澪香が、
I田社長の毛髪問題で
「ヅラ」「粉」と真っ向から割れた。
この事実だけで、
ヒロインたちは一様に放心状態だった。
「……双子が割れた……」
みのりがぽつり。
「そんなこと、
戦隊ヒロイン史上あったっけ……」
詩織は台本を持ったまま固まっている。
綾乃は真顔で腕を組み、
「これはもう
世界の歪みどすな」
彩香も頷く。
「時空が乱れとるわ」
その空気を破ったのは、
勢いよくドアを開けて入ってきた人物だった。
「おー、
なんか重たい空気だっぺな」
山口唯奈である。
美月が待ってましたとばかりに振り向いた。
「唯奈!
ちょうどええとこや!」
「な、なんだっぺ?」
「I田社長の髪や!
ヅラか地毛か粉か、どう思う!」
一瞬の沈黙。
唯奈は首をかしげ、
間を置かずに言った。
「……ヅラだっぺよ」
あまりにもあっさり。
「即答!?」
「迷いゼロ!?」
「今までの議論は何だったの!?」
ヒロ室がどよめく。
美月は崩れ落ちた。
「……もうええ……
全員ヅラ派でええ……」
だがここで、
美月の脳裏に最終兵器が浮かぶ。
「……せや」
顔を上げ、
ニヤリと笑った。
「蒼牙2000・改に聞こや」
一同、ハッとする。
「確かに……」
「あれなら……」
「人間やないし……」
こうして、
全員ぞろぞろと
ヒロ室地下へ移動することになった。
地下駐車区画。
鎮座するドリームトラクター、
蒼牙2000・改。
エンジン音は静か、
佇まいは落ち着き払っている。
美月が代表して尋ねた。
「なぁ蒼牙、
I田社長の髪、どう思う?」
一瞬の沈黙。
蒼牙2000・改は、
いつもの丁寧な口調で答えた。
「……私には分かります」
全員、身を乗り出す。
「しかし」
「人には
知られたくない秘密もあるでしょう」
ざわっ。
「分かっていても、
知らないふりをする優しさも
戦隊ヒロインには必要なことです」
黒崎茉莉花が以前話した内容とほぼ一緒。
「茉莉花さんと同じこと言うとる……」
「デジャヴ……」
「人格、共有してる?」
その瞬間、
背後から足音。
「いいこと言ってるじゃない」
遥室長が現れた。
隣には茉莉花、
さらに経理担当・谷口佳乃もいる。
「結論を出すことだけが
正義ではありません」
茉莉花が静かに続ける。
「知らないことを
責めないのも、大人です」
けちのんが腕を組む。
「そもそも
この議論、
一円の利益にもなりまへん」
美月が小さく呻いた。
「身も蓋もない……」
ここで、
尾張弁の第三勢力・山田真央が首をかしげる。
「なぁ蒼牙2000・改」
「はい、山田さん」
「お前さんが
そんなええこと言うの、
誰の影響だがね?」
一瞬の間。
「さぁ……」
蒼牙2000・改は少し考え、
「明日香さんではないでしょうか」
「あー……」
「納得……」
「それなら仕方ない……」
全員が妙に腑に落ちた。
空気が和らいだ、その瞬間。
美月が遥室長ににじり寄った。
「なぁ遥さん」
「なんですか」
「Yグループの
デーブイデー(DVD)プレーヤー、
買って~」
一同、ズコーッ。
「何の流れ!?」
「どこから!?」
「急すぎる!」
けちのんが即座に前に出る。
「使用用途が不明やからあかん」
「秒で!?」
「情け容赦なし!?」
美月は天を仰いだ。
「……優しさって
どこ行ったん……」
けちのんは淡々と返す。
「それとこれは
別問題でっしゃろ」
こうして、
I田社長毛髪問題は
真実不明・結論保留のまま幕を閉じた。
だが一つだけ、
確かなことがある。
この議論は――
また必ず蒸し返される。
そしてそのたびに、
誰かが真顔で言うのだ。
「……もう一回、
蒼牙に聞こか?」




