一体何度目だ、この話。 ――新橋ヒロ室・大手通販会社YグループのI田社長毛髪戦争、ついに双子が割れる――
新橋ヒロ室のミーティングスペースでは、
今日もまた平和とは無関係な論争が再燃していた。
「……で、結局どう思うん?」
この一言で始まる議題は、
もはやヒロイン内では季節の風物詩になっている。
大手通販会社YグループのI田社長・毛髪問題。
この話題が最初に出たのは、もういつだったか誰も覚えていない。
だが確かなのは、これが一度も決着したことがないという事実だけだ。
「何回言わせるねん!」
美月が机を軽く叩く。
「あれは地毛や!
努力と根性の結晶や!」
この主張だけは、初回から一貫している。
美月は一度もブレたことがない。
ブレる気もない。
「またそれどすか……」
綾乃が深いため息をつく。
「どう見ても
ヅラどす」
「絶対にヅラです」
彩香も即答。
こちらも初回から一歩も譲らない。
「地毛言うてる人、
どこ見てはるんです?」
この二人のヅラ派同盟は鉄壁だ。
ここまでは、いつもの光景だった。
だが今日、
この不毛な二項対立に第三極が参戦した。
「違います」
隼人司令補佐官が静かに言った。
「粉です」
「はい」
隣で、器用な愛知県人・山田真央が
ドギツイ尾張弁で断言する。
「粉だがね。
あれは振りかけとる」
一気に空気が変わった。
「粉……?」
「第三勢力来た……」
「選択肢増やすな……」
他のヒロインたちがざわつく。
勢力図はこうだ。
・地毛派:美月
・ヅラ派:綾乃、彩香、のどか
・粉派:隼人、真央
完全な三つ巴。
小春が小さく呟く。
「……私たち、
いつまでこの話聞かされるの……?」
詩織は既に現実逃避。
「……台本、読んでていいですか……?」
みのりは腕を組んで唸る。
「この議論、
戦闘訓練より疲れる……」
完全に巻き込まれ事故だった。
美月は譲らない。
「ヅラや粉や言う前に、
地毛を信じろや!」
綾乃が即反撃。
「信じる信じへんやのうて、
事実どす」
彩香も頷く。
「物理的にありえないです」
隼人が冷静に続ける。
「粒子の定着角度が――」
「専門用語持ち出すな!」
全員から一斉ツッコミ。
このとき、美月の頭に一つの策が浮かぶ。
(……迫田ツインズや)
澄香と澪香。
これまで意見が割れたことが一度もない双子。
「この二人が地毛って言えば、
数的優位が……」
美月は勝利を確信した。
「なぁ澄香、澪香。
I田社長の髪、どう思う?」
全員の視線が集まる。
澄香が口を開いた。
「私は……
ヅラだと思います」
一瞬、時が止まる。
「……は?」
澪香が続く。
「私は……
粉かな」
完全沈黙。
「割れた……」
「双子が……」
「初めて……」
綾乃と彩香は衝撃を受け、
隼人と真央はなぜか誇らしげ。
だが――
美月だけ、別の意味で崩れ落ちた。
「……なんでや……
二人で地毛言うてくれる思うたのに……」
「そこ!?」
「衝撃ポイントそこなん!?」
総ツッコミが飛ぶ。
そして異変は続く。
澄香と澪香が、
本気で議論を始めたのだ。
「ヅラの生え際の完成度が高すぎる」
「でも粉なら
動いたときの軽さ説明できる」
「照明下での影は?」
「いや粒子反射が――」
双子が真正面から言い合う光景に、
ヒロインもスタッフもあんぐり。
「……この議題で
能力解放せんでも……」
のどかが呆れる。
結論は、当然出なかった。
三派、誰も折れない。
小春がぼそっと言う。
「……もう
全部正解でよくない?」
誰も反論できなかった。
会議終了後。
美月は椅子にもたれ、天井を見る。
「……次は絶対、
地毛って言うてな……」
澄香と澪香は同時に首をかしげる。
「それはまた別の話」
こうして今日も、
新橋ヒロ室では
平和と無関係な論争だけが
確実に前進していた。
そして誰も、
次こそ決着がつくとは思っていなかった。




