直そうとして、完全一致。 ――迫田ツインズ、自己修正ループに入る――
戦隊ヒロインプロジェクトに加入して、数か月。
迫田澄香と迫田澪香は、順調すぎるほど順調だった。
運動能力、対応力、現場での気配り。
どれを取っても優秀。
しかも二人そろうと、場の空気が柔らぐ。
唯一の問題は――
似すぎていることだった。
「最近さ……」
ある日、控室で澄香が言った。
「澪香、語尾ちょっと上がるときあるよね」
澪香は真剣な顔で頷く。
「うん。
澄香も、人の話聞くとき、同じタイミングで頷きすぎ」
二人は顔を見合わせる。
「……直したほうがいいかな」
「うん。
少しずつ、癖は減らしたほうがいいよね」
この判断が、すべての始まりだった。
翌日。
「はい、次の立ち位置ここでお願いします」
スタッフの指示に、二人が並ぶ。
澄香が、ほんの少しだけ頷くのを我慢する。
それを見た澪香も、
同じタイミングで頷くのを我慢する。
二人、動かない。
美月が小声で言う。
「……今日、やけに静止画ちゃう?」
みのりが首をかしげる。
「瞬きまで合ってない?」
澄香が言う。
「今の、どうだった?」
澪香が答える。
「うん。
でも澄香、右肩が少し上がってた」
「ほんと?
じゃあ直す」
澪香も、無意識に右肩を下げる。
結果:二人とも同じ姿勢になる。
詩織が台本をめくりながら呟く。
「……最初より、
一致度が上がってるような……?」
数週間後。
ヒロイン内で異変が報告され始めた。
「迫田ツインズ、
前より区別つかんくなってない?」
「声のトーンまで同じなんだけど」
「立ち方、呼吸の間、
全部そろってる気がする……」
本人たちは、いたって真面目だった。
「澄香、今の笑顔、0.5秒遅らせてみよ」
「了解。
じゃあ澪香は、目線を0.5度左に」
結果。
二人とも、0.5秒遅れて、0.5度左を見る。
彩香が頭を抱える。
「もうアカン……
修正がコピーになっとる……」
すみれコーチは腕を組んで一言。
「これ、
相手を基準に自己修正しとるからやな」
「鏡が二枚並んでる状態や」
そして迎えた、久しぶりの帰省。
宮崎県都城市。
太陽が照りつける迫田牧場。
「ただいまー!」
二人が声をそろえて玄関に入る。
両親が振り返る。
父が一瞬、固まる。
「……どっちや?」
母も目を細める。
「……ちょっと待って。
今、二人おるよね?」
澄香が一歩前に出る。
「お父さん、私、澄香だよ」
澪香も同時に一歩前。
「私が澪香」
沈黙。
親戚一同も集まる。
叔母が言う。
「前はな、
“こっちが澄香、こっちが澪香”って
なんとなく分かっとったっちゃけど……」
従業員のおじさんが首を振る。
「無理や。
前より似とるど」
友人がスマホを構えて言う。
「ねえ、
今どっちが笑った?」
二人、同時に微笑む。
完全一致。
母が、ついに本音を漏らす。
「……あんたら、
大阪でなんかされたっちゃろ?」
父も深刻な顔で頷く。
「前より増えとる。
双子成分が」
澄香と澪香は顔を見合わせて、同時に苦笑した。
「ちょっとね……」
「お互いの癖、直そうとして」
母、即答。
「余計なことせんでよかったとよ!」
一同、爆笑。
柴犬のポン太だけが、
二人を見比べて正確に澄香の前に座る。
父が指をさす。
「ほら!
ポン太は分かっとる!」
ポン太、澪香を見ると首をかしげる。
母がため息。
「……人間より犬のほうが賢いっちゃが」
その夜。
縁側で、二人は並んで座った。
「ねえ澪香」
「なに?」
「私たちさ、
直す方向、間違ってたかもね」
澪香は、少し笑って答えた。
「うん。
違いを作るんじゃなくて、
違ってもいいって思えばよかった」
二人は、同時に空を見上げる。
月明かりの下で、
影までそっくりな二人。
だが、笑い声だけは――
ほんの少し、ズレていた。
そのズレに気づいたのは、
この日もやっぱり、本人たちだけだった。
――直そうとして、似すぎるのも、
迫田ツインズらしさである。




