どうぞが多すぎて、物語が進まない ――迫田ツインズ、譲り合いで時間を止める――*
ヒロ室のサブステージ。
簡単なイベント前リハーサルのはずだった。
「じゃあ次、挨拶いきましょう。迫田ツインズ、どちらから?」
スタッフの合図に、
迫田澄香と迫田澪香は、同時に一歩前に出かけて――止まった。
一瞬の沈黙。
澄香が微笑む。
「……どうぞ」
澪香も、まったく同じ角度で微笑む。
「……どうぞ」
二人、動かない。
スタッフが首をかしげる。
「あの……どちらかで大丈夫ですよ?」
澄香、半歩下がる。
「じゃあ、澪香から」
それを見た澪香、半歩下がる。
「いえ、澄香が先で」
元の位置に戻る二人。
誰も声を出さないまま、3秒経過。
美月が小声で言う。
「……あれ、今どっちが前や?」
みのりが首を傾げる。
「最初と一緒の構図に戻ってない?」
詩織は台本を見ながら困惑する。
「えっと……ここ、挨拶って一文なんですけど……」
二人は、まだ譲っている。
「澄香が言うと、流れがきれいだから」
「いや、澪香の声のトーンの方が最初向きだと思う」
「じゃあ私、二番手で」
「二番手が決まらないと一番手が決まらないよ?」
無限ループ①発生。
ここで、彩香が耐えきれず口を挟む。
「ちょっと!
どっちでもええから早くして~!」
その声に、二人が同時にハッとする。
「ごめん!」
「ごめん!」
そして、同時に一歩前へ出る。
ぶつかりそうになって、同時に止まる。
「……あ」
「……あ」
また沈黙。
彩香、天を仰ぐ。
「もうやだこの双子……!」
仕切り直し。
今度は出番前の舞台袖。
「じゃあ、澄香が背中押してあげて。澪香が先で」
スタッフの指示に、澄香が頷く。
「うん。じゃあ……」
ところが。
澪香も、同時に動く。
「じゃあ私が、澄香の背中押すね」
二人、お互いの背中を押そうとして、空振り。
腕が宙を切る。
「……あれ?」
「……今、押す役かぶった?」
無限ループ②発生。
澄香が言う。
「じゃあ私、後ろに回るね」
澪香も言う。
「じゃあ私、後ろに回る」
結果、二人とも後ろに回って誰も前に出ない。
美月が戦慄した声を出す。
「これ……
どっちも“相手の背中を押す役”しか想定してへんやん……」
すみれコーチが腕を組む。
「善意が高度すぎて、
役割分担が存在せえへんタイプやな」
彩香、ついに叫ぶ。
「もう!
二人同時でええから出てきて!!」
その一言で、
迫田ツインズは顔を見合わせ、同時にうなずいた。
「じゃあ、一緒に」
「一緒に、ですね」
二人並んで一歩前へ。
完璧なシンクロで、深々とお辞儀。
観客席(想定)からは、なぜか拍手。
詩織がぽつり。
「……結果的に、
一番きれいな入り方になりましたね……」
遥室長が静かにまとめる。
「迫田ツインズは、
・相手を立てすぎる
・自分が前に出る前提を持たない
・でも、二人そろうと完成度が跳ね上がる」
彩香は腕を組みながら言う。
「もうええわ。
この双子、二人で一人枠ってことで」
澄香と澪香は、同時に首を傾げる。
「それって……」
「褒め言葉、ですか?」
彩香、即答。
「褒めてる褒めてる!
ただし時間管理だけは気をつけて!」
二人、同時に元気よく。
「はい!」
こうして今日も、
迫田ツインズは誰も傷つけず、
誰も怒らせず、
ただ少しだけ時間を止めて、
最後にはちゃんと場を和ませるのだった。
――どうぞが多すぎるのも、才能である。




