二人で一人分の正解を出すな ――ヒロ室会議、最も静かで最も混乱した日――
ヒロ室ミーティングスペースは、その日もいつも通りだった。
ホワイトボード、長机、紙コップのコーヒー。
違いがあるとすれば、空前絶後の美人双子・迫田澄香と澪香が、横並びで座っていることくらいだ。
遥室長が穏やかな声で切り出す。
「じゃあ、今週末のイベント対応について。
迫田ツインズとしての立ち回り、どう考えてますか?」
次の瞬間だった。
「まず――」
「基本的には――」
声が、ぴったり重なった。
一瞬、場が静まる。
遥室長が瞬きを二回。
「……どちらかが答えてください」
澄香が一歩引く。
「じゃあ、澪香から」
澪香が同時に一歩引く。
「いえ、澄香から」
「どうぞ」
「どうぞ」
結局、二人は同時に前を向いた。
「全体の流れとしては」
「全体の流れとしては」
「MCとの呼吸を優先して」
「MCとの呼吸を優先して」
「テンポを乱さないように」
「テンポを乱さないように」
一文を、半分ずつ言っているのに、完全に一つの文章だった。
遥室長は理解が早い。
「あ、なるほど。二人で一人分の回答ね」
「はい」
「はい」
ここで、異変に気づいた者がいた。
赤嶺美月である。
(……なんか、嫌な予感する)
美月は何気ない顔で、二人の手元を盗み見た。
そこには、それぞれメモ帳。
――同じタイミングでペンが動く。
――同じ行間。
――同じ要点の抜き方。
そして決定打。
句読点の位置、完全一致。
「……ちょ、ちょっと待って」
美月の声が裏返る。
「そのメモ……コピーしたん?」
澄香「してないです」
澪香「してないです」
美月、さらに覗き込む。
(要点①、矢印の角度、丸の書き方……
これ、ワシのノートより似とるやん……!)
戦慄する美月をよそに、遥室長が質問を続ける。
「で、想定外の質問が来た場合は?」
間髪入れず、
「その場合は――」
「その場合は――」
「落ち着いて」
「落ち着いて」
「宮崎弁を」
「……あ」
ここで初めてズレた。
澄香「標準語で対応します」
澪香「諸県弁で和ませます」
遥室長「……今、スイッチ入れ替えました?」
二人、同時ににっこり。
「はい」
「はい」
場が崩壊した。
「なんでやねん!」
美月が思わずツッコむ。
「普段と逆やん!
澄香が『~ですね』で、澪香が『~じゃっど』やったやろ!」
澄香「今日は逆の日です」
澪香「特に理由はありません」
遥室長、額を押さえながら笑う。
「……二人とも、
一人で一人分の仕事をする能力があるのに、
二人で一人分に調整するのやめてください」
最後に、議事録確認。
美月のメモと、
澄香のメモと、
澪香のメモ。
三冊を並べると――
なぜか迫田ツインズ二冊が完全一致。
美月、静かに震えながら呟いた。
「……この二人、
ヒロインやなくて現象や……」
迫田ツインズは、今日も息ぴったりだった。
仕事は完璧。
混乱するのは、いつも周囲だけ。
――ヒロ室は今日も平和である。




