今、二人で聞いたよね? ――迫田ツインズ・完全同期質問事件
新橋ヒロ室のミーティングスペースは、
今日も「いつも通り」のはずだった。
長机に並ぶ資料、
ホワイトボードの進行表、
紙コップのコーヒーと、少し眠そうな顔のスタッフ。
そこに並んで座るのが、
迫田澄香と迫田澪香――空前絶後の美人双子姉妹。
誰もがもう慣れているはずだった。
似ていることにも、
笑顔の角度が同じことにも、
座る姿勢までそっくりなことにも。
……この時点では。
真帆が淡々と説明する。
「次回イベントでは、前半はトーク中心、
後半はアクション寄りで進行します」
琴音が頷きながらメモを取る。
美月は椅子を少しギコギコさせながら聞いている。
詩織は台本を胸に抱え、真剣な表情。
澄香と澪香は、
同じページを開き、
同じ箇所にペン先を当てていた。
その瞬間までは、
誰も異変に気づかなかった。
真帆が言う。
「では、ここまでで質問はありますか?」
ほんの一拍。
次の瞬間。
「ここって――」
「ここって――」
会議室の空気が、
一瞬だけ“ズレた”。
「「立ち位置、左右どっちですか?」」
完全に同時。
声の高さ、
語尾の伸ばし方、
息継ぎの位置まで一致。
時間が止まった。
美月が最初に動いた。
「……今の、リピート再生ちゃうよな?」
詩織は口を半開きにしたまま固まる。
琴音が小声で言う。
「……え、どっちが聞いた?」
真帆は一瞬だけ視線を泳がせた後、
冷静を装って聞き返す。
「……えっと、
今の質問は……」
澄香と澪香、同時に首をかしげる。
「私ですけど?」
「私ですけど?」
また同時。
室内がざわつく。
「えっ?」
「今のも?」
「仕込みじゃないよね?」
美月がツッコむ。
「なぁ、これ漫才の“せーの”入っとるやろ?」
澄香はきょとんとした顔。
「普通に聞いただけですよ?」
澪香も同じ表情。
「同じところが気になったので」
真帆が恐る恐る確認する。
「……事前に打ち合わせとか?」
「してません」
「してません」
また同時。
詩織が小さく声を上げる。
「えっ……えっ……?」
完全に処理落ちである。
その後も会議は続いた。
だが、
質問のタイミングが来るたび、
全員が無意識に二人を見る。
そして――
「この順番は――」
「この順番は――」
「「交代制ですか?」」
三度目の完全同期。
今度は、
スタッフ全員が同時に肩を落とした。
美月が机に突っ伏す。
「もうアカン……
双子やのうて、
共有意識やん……」
隼人補佐官は真顔で言う。
「……これは、
いたずらではありませんね」
「はい」
「はい」
また同時。
会議が終わるころには、
全員が妙に疲れていた。
内容は何も問題なかった。
進行も完璧。
二人の受け答えも理想的。
なのに、周囲だけが消耗している。
帰り際、
美月がぼそっと言う。
「なぁ……
あんたら、
一回ずつ喋るって選択肢ないん?」
澄香と澪香、顔を見合わせてから笑う。
「できますよ?」
「でも、今日はたまたまです」
――また同時。
こうしてヒロ室には、
新たな注意事項が静かに追加された。
《迫田ツインズへの質問は、指名制を推奨》
しかし当の二人は、
今日も並んで歩きながら、同時につぶやく。
「お腹すいたね」
「お腹すいたね」
……誰ももう、ツッコまなかった。




