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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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471/572

入れ替わっても、仕事は回る。人間だけが回らない  ――迫田ツインズ・静かなる一日代理事件

新橋のヒロ室は、その日もいつも通り平和だった。

少なくとも、表面上は。


朝のミーティング。

迫田澄香はイベント広報担当、迫田澪香は訓練補助担当。

いつも通り、完璧な分担。

誰一人として疑わなかった。


――ただし、本人たち以外は。


実はその朝、控室で二人は顔を見合わせ、同時に頷いていた。


「今日は入れ替わる?」

「うん、自然にね」


それだけ。

理由も説明もない。

そして二人は、何事もなかったかのように持ち場へ散っていった。


午前中。

イベント資料の確認をしていた詩織が、澄香に声をかける。


「澄香さん、この動線なんですけど……」


振り向いた“澄香”は、即座に答えた。


「観客導線と安全係数を考えると、ここは二重バリア想定が妥当ですね。

 あと、段差部分は踏み込み角度が……」


詩織は一瞬固まった。


(……今日の澄香さん、やけに理屈派?)


しかし内容は正確そのもの。

詩織は「なるほどです……」と納得してしまう。


その数分後。

訓練場では、澪香に指示を仰いでいた新人スタッフが目を丸くしていた。


「えっと……ここはどう誘導すれば……」


“澪香”は、にこっと笑って答える。


「大丈夫ですよ〜。

 まず声をかけて、安心させてから一緒に動きましょう。

 ほら、深呼吸です♪」


現場は一気に和やかになる。


(……今日の澪香さん、やけに柔らかい?)


だが、仕事は完璧だった。


昼過ぎ。

美月が首をひねる。


「なぁ……今日の澄香、いつもよりクレバーちゃう?」

「そうですか?」と“澄香”。

「澪香は逆に、なんか包容力増してへん?」

「気のせいじゃないですか?」と“澪香”。


二人は同時に、同じ角度で首をかしげた。


美月は考えるのをやめた。


「……まぁ、ええか」


午後。

隼人補佐官が訓練報告を受けながら、眉をひそめる。


「……両方とも、今日やけに“噛み合いすぎている”」


効率は良い。

連携も完璧。

むしろ理想的。


だが、どこか引っかかる。


その横で、黙って状況を見ている存在があった。


ドリームトラクター――蒼牙2000・改。


内部ログは朝から明確だった。


声紋:澪香


行動パターン:澄香


声紋:澄香


行動パターン:澪香


完全に入れ替わっている。


蒼牙2000・改は静かに判断する。


(問題なし。

 業務遂行率、通常比103%。

 人的混乱、軽微。

 ……指摘する必要、なし)


そして何も言わなかった。


夕方。

一日が終わる。


業務は滞りなく終了。

トラブルゼロ。

むしろ「今日はやけにスムーズだった」という評価まで出る。


控室に戻った二人は、顔を見合わせて笑った。


「今日も誰も気づかなかったね」

「うん、完璧」


そこへ、蒼牙2000・改の穏やかな音声が入る。


「お二人とも、お疲れさまでした。

 本日は“一日代理運用”、非常に安定していました」


二人は一斉に振り向いた。


「……やっぱり分かってた?」

「最初から?」


蒼牙2000・改は淡々と答える。


「はい。

 朝8時12分の歩幅データで確信しました」


二人は顔を見合わせ、そして深く頭を下げた。


「さすがです」

「トラクターに負けたね」


蒼牙2000・改は、少しだけ間を置いてから続けた。


「なお、黙っていた理由ですが――

 人間は、気づかないままの方が幸せな日もあります」


二人は同時に、吹き出した。


「それ、誰に教わったの?」

「明日香さん?」


蒼牙2000・改は、ほんの一瞬だけ沈黙した。


「……ログにはありません」


その夜、ヒロ室ではこう噂された。


――迫田ツインズは見分けがつかない。

――だが、入れ替わっても世界は回る。

――疲れるのは、考えすぎる人間だけだ。


そして次の日も、

二人は何事もなかったかのように、並んで笑っていた。

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