ふとん屋はステージより熱かった!〜聖地巡礼と値札ガチャの奇跡〜
戦隊ヒロイン・大宮麗奈。
都内のトークショーでのMC、月島小春の名台詞――
「みんなで大宮ふとん店に買い物行くぞー!!」
観客の「オーーッ!!」
そして麗奈の「来なくていいから〜!!」
……このお決まりの掛け合いが、まさか現実になるとは。
イベントの翌週から、上尾の商店街はざわついていた。
麗奈の実家「大宮ふとん店」に、次々と現れるファン。
スマホの地図片手に迷子になりながらも、彼らは言う。
「これが……聖地巡礼だ……!」
だが、その道のりは険しい。
駅から徒歩15分のはずが、なぜか30分経っても畑の中。
「……ここ、本当にある?」
「看板見えないんだけど!?」
「“と”の字が消えてる!『大宮ふ ん店』になってる!!」
そう、看板の“と”はもう限界を迎えていた。
「ふ ん店」で検索しても何も出ない。
電話をかけても「おかけになった番号は現在使われておりません」。
ファンたちは悟る。
これが聖地巡礼(迷子付き)か……。
それでも運良くたどり着いた者には、天国が待っている。
店内では80代の祖母が笑顔で迎える。
「遠いとこよう来たねぇ。レジ壊れてるから、そろばんでいい?」
母はお茶を出しながら世間話。
「麗奈ねぇ、最近ちょっと太ったでしょ。あれはねぇ、夜食が悪いのよ」
父は新聞をたたみながら言う。
「どこから来たの? ああ、北海道。じゃあ2割引きだな」
SNSではこの光景が瞬く間に拡散された。
「#大宮ふとん店ファンサ日本一」
「#聖地でそろばん精算された」
「#麗奈父が優しかった」
「#麗奈母美人すぎて混乱」
だが、最大の話題はやはり値札ガチャ。
「この枕カバー、500円かなと思ったら3000円だった」
「逆に羽毛布団が4000円だった」
「“気分で値段変わるのが味”って書いてある」
そして伝説の魔法ワード。
「麗奈のお姉さんですか?」
これを放つと、母が目を輝かせる。
「ま〜ぁ!うれしいこと言ってくれるわねぇ!」
――その瞬間、価格崩壊。
「じゃあ、8割引きでいいわよ!」
(※実話報告多数)
父は父でファンとの距離が近すぎる。
「どこの現場行った?幕張? あそこ風強いよな!」
「サイン欲しい? 俺の名前でもいい?」
さらに祖母は孫の麗奈より人気が出てしまう。
ファンが撮った写真にコメントがつく。
「おばあちゃんの笑顔に救われた」
「孫よりオーラある」
――そして、商店街組合の会議。
「最近大宮さんとこ、急に繁盛してますねぇ」
「うちより人入ってますよ」
それを聞いた父、胸を張って言う。
「うちはね、戦隊公認店舗なんですよ」
母「勝手に公認にしないで!」
その日も夕暮れ。
ふとん店の前で記念撮影をするファンたち。
「本当に来ちゃったね」「“ふ ん店”の“と”無いね」
「でも、あったかい店だった」
麗奈はSNSを見ながらため息をつく。
「……もう、完全にネタじゃん……」
その横で月島小春がにやり。
「麗奈ちゃん、次のイベントでも言うよ?
みんなで大宮ふとん店に買い物行くぞー!!」
観客の声が脳内でこだまする。
「オーーッ!!」
麗奈、顔を覆う。
「来なくていいからぁぁぁぁっっ!!」
――こうして今日も、上尾の片隅にある“ふ ん店”には、
また一人、新たな巡礼者が迷い込むのであった。




