見分けようとした瞬間から、もう負けている ――迫田ツインズ、太陽属性につき識別不能――
その双子は、最初から明るかった。
それも「性格が明るい」というレベルではない。
日照時間そのものを性格に変換したタイプの明るさだった。
迫田澄香と迫田澪香。
宮崎県、太陽が燦々と降り注ぐ土地の出身だけあって、二人そろって朗らかで、穏やかで、誰とでも自然に距離を詰められる。
「よろしくお願いします!」
「お願いします!」
声のトーン、笑顔の角度、軽い会釈の深さまで完全一致。
挨拶を受けたヒロ室スタッフは、無意識に名簿を二度見した。
美人。
明朗快活。
身体能力も高い。
しかも正義感があり、話も通じる。
戦隊ヒロインとしての適性は――
及第点どころか、初日から大幅に合格点超えだった。
戦闘訓練では息が合いすぎていて、
片方が動けば、もう片方も同じ角度、同じタイミングで動く。
「完璧やな……」
「ただ一つ問題がある」
誰が、どっちか分からない。
立ち姿。
歩幅。
頷く癖。
考えるときにほんの少し首を傾ける角度。
全部同じ。
既存メンバーとも、あっという間に馴染んだ。
昼休みには自然と輪の中心にいて、
誰かが話し出すと、二人で同時に笑う。
そのたびに周囲が一瞬だけ止まる。
「……今、どっちが笑った?」
「……両方です」
混乱しているのは、いつも周囲だけだった。
ある日のイベント前。
台本チェックの時間。
おっとりした歌姫、藤原詩織が、真剣な顔で台本を抱えていた。
「えっと……ここで、澄香さんが一歩前に出て……」
詩織は顔を上げ、目の前の双子を見る。
――二人とも、にこにこしている。
「……えっと……」
一歩踏み出したのは、右。
同時に、左も半歩動いた。
「……あれ?」
詩織、台本を見る。
顔を上げる。
もう一度見る。
「えっ……えっ?」
「はい!」
「はい!」
二人同時。
「……今、どちらに話してましたっけ……?」
詩織の声が、ほんのり揺れる。
周囲がそっと目を逸らす中、
迫田ツインズはどこ吹く風だった。
「大丈夫ですよー」
「いつもこんな感じなのでー」
穏やか。
そして順応が早い。
詩織は完全に思考が追いつかなくなっていた。
「じゃ、じゃあ……澄香さんは……えっと……」
指差した瞬間、
二人とも同じ角度で小さく首を傾げた。
「……あっ……」
その場にいた全員が、心の中で同じことを思った。
――あ、これ詰んだな。
最終的に詩織は、
台本を胸に抱えたまま、小さく笑った。
「……もう、二人まとめてでお願いします……」
その言い方があまりにも優しく、
あまりにも降参宣言だったので、
場はなぜか和やかな空気に包まれた。
しかし問題は深刻だった。
「何か……見分け方はないのか」
「声は?」
「同じ」
「利き手は?」
「同じ」
「雰囲気?」
「同じ」
ヒロ室では、珍しく真剣な会議が始まった。
「ピンマイクの色を変える?」
「入れ替わる」
「髪留め?」
「揃える」
「名札?」
「外す」
本人たちは、終始にこにこしている。
「そんなに困ってるとは思わなかったです」
「でも面白いですよね」
悪意ゼロ。
天然100%。
こうしてヒロ室は理解した。
迫田澄香と迫田澪香は、
見分けようとした時点で負けるタイプの双子である。
そしてこの日を境に、
公式書類にはこう書かれるようになった。
――迫田ツインズ(同時運用推奨)
識別は、後回し。
まずは太陽属性の笑顔で、今日も現場は明るく照らされる。
なお、
本人たちは最後まで「そんなに似てます?」という顔だった。




