四万人キャンパスで一番うるさいスカウト――美月、双子を釣る
赤嶺美月が通う近畿学院大学は、国内最大級の総合大学である。
キャンパスは西日本各地に点在し、在学生はおよそ四万人。数が多すぎて、学内では「近畿学院で“全員知ってる”は都市伝説」と言われるほどだ。
政財界、プロスポーツ界、芸能界。
やたらと「近畿学院出身」が肩書きに付くのもこの大学の特徴で、産学連携で生まれた研究成果が普通に世の中で使われていたりもする。
要するに、やたらすごい大学である。
そんな大学に、美月はこう言って進学した。
「家からチャリで行けるからや」
理由が雑すぎる。
しかし本人はいたって真面目にキャンパスライフを満喫していた。
戦隊ヒロインとして全国を飛び回りながら、チアリーディングサークルに所属し、野球部の応援には本気で参加。
学内では「声がデカい」「仕切りが早い」「なぜか顔が広い」という三点セットで知られ、もはや大学のインフラみたいな存在になっていた。
そんな美月の最近の悩みは、ひとつ。
「……戦隊ヒロインプロジェクトのお友達紹介キャンペーンの粗品、何なんやろ」
どうしても気になる。
粗品。
中身は知らない。
だが“紹介”と聞いた瞬間、火がついた。
「よっしゃ、連れてくるで」
美月は動いた。
学内のツテを総動員。
別キャンパス、学祭実行委員、体育会、地方出身者ネットワーク、なぜか購買部のおばちゃんまで使い、辿り着いた名前が――
迫田澄香・迫田澪香。
宮崎県都城市出身の美人双子。
同じ大学だがキャンパスは違う。
それなのに「知らない人はいない」双子として有名だった。
初対面の場所は、学内カフェ。
美月は二人を見た瞬間、素で声が出た。
「うわっ……クローンやん……」
澄香と澪香は同時に首を傾げた。
「初めまして」
「初めまして」
声の高さ、間、表情、全部一緒。
「いや、ちょっと待って。こんな美人が二人もおったら、たまらんわぁ……」
澄香と澪香、同時に微笑む。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
完全同期である。
二人はすでに美月のことを知っていた。
戦隊ヒロインで、大学内でもやたら目立つ存在。
正直、知らない方が難しい。
美月が単刀直入に切り出す。
「でな、戦隊ヒロイン、興味ない?」
間髪入れず、澄香が前のめりになる。
「あります」
同時に澪香も言う。
「……どうしようかなぁ」
声、間、表情、全部一緒。
違うのは言ってる内容だけ。
「え、今のどういう判定なん?」
「あります」
「……どうしようかなぁ」
二人、同時に首を傾げる。
美月は腹を抱えた。
「ちょ、待って! リアクションまで一緒は反則やろ!」
澄香は楽しそうにうなずき、澪香は同じ角度でうなずく。
「お姉ちゃんはやる気です」
「私はまだ考え中です」
「いや、体は一緒に動いとるやん!」
カフェの空気がゆるむ。
周囲の学生がチラチラ見るが、誰も止めない。
近畿学院ではよくある光景だ。何か騒がしいが、たぶん美月。
美月はニヤリと笑った。
「まぁええわ。粗品のためやし」
「……そこなんですね」
「……そこなんですね」
また同時。
こうして、
四万人キャンパスのどこかで、
戦隊ヒロインプロジェクトに新たな双子の風が吹き込もうとしていた。
なお、粗品の中身は美月は知らない。




