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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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462/508

机上を出たら、週末が消えた ― 中村玲、現場主義に沼る ―

諏訪精巧機電研究所。長野県諏訪市、諏訪湖を見下ろす高台にあるこの研究所は、精密機電の聖地として知られ、数字と理屈と静かな情熱が支配する場所だった。

そこで働く若手技術者・中村玲も、かつてはその世界の申し子だった。


グラフは正義。数値は嘘をつかない。

実験結果は再現性がすべて。

現場?――それは「誤差が多い環境」くらいの認識だった。


そんな玲の人生が大きく傾いたのは、戦隊ヒロイン・山口唯奈の一言だった。


「理論は立派だけどさ。

 一回、オラたちと一緒に現場出てみろっぺ」


この一言である。


こうして玲は、新兵器開発のために“週末ヒロイン”となった。

平日は諏訪市の研究所で白衣を着て回路図とにらめっこ。

週末は戦隊ヒロインとしてイベント会場や、時には本物の戦闘現場に立ち、装備を着用し、汗をかき、転び、時々爆発を見届ける。


――なお、爆発は減った。

「ゼロではないが、体感で半分以下です」と玲は胸を張る。


現場に出て、初めて分かったことがある。

数値上は問題ない装備が、実際には「重い」「暑い」「怖い」。

装着者が緊張すれば、反応速度も判断も変わる。

観客の前で転べば、精神的ダメージは計算式に出てこない。


そして何より――

人は、想定どおりに動かない。


そんな玲の変化を、誰よりも楽しそうに見ているのが唯奈だった。


「被験者……いえ、唯奈さん」


「今、被験者って言ったっぺ?」


「言ってません」


「言った」


このやり取りは、もはやヒロイン内の風物詩である。

美月は横で「また始まったで」と笑い、綾乃は「仲よろしおすなぁ」と皮肉を添え、彩香は真顔で回数を数えている。


現場第一主義に転向した玲は、驚くほど忙しくなった。

週末はイベント、平日は研究、合間にフィードバック整理。

趣味の諏訪湖でのワカサギ釣りは、すっかり“未来の予定”になった。


「今年は一回も行けてませんね……」

そう言って笑う玲に、ドリームトラクター《蒼牙2000・改》が心配する。


「このままでは、週末ヒロインではなく“終末ヒロイン”になってしまいますよ」


「それ、誰の影響ですか……」


「さぁ……明日香さんではないでしょうか」


巫女兼エンジニアの稲生明日香は、聞こえないふりをした。


現在、玲・すみれコーチ・明日香が関わる新兵器は、まだ試作品段階だ。

以前より爆発は減った。

ただし、安全基準は「唯奈なら耐えられる」レベルで止まっている。


「陽菜さんや詩織さんでも安心して使える装備にしたいんです」


そう語る玲の目は、もう完全に研究者ではなく、現場の仲間のものだった。


机上を出た技術者は、もう元には戻れない。

週末は消えたが、代わりに得たものは確かにあった。


玲は今日も白衣とヒロイン衣装を行き来しながら、全力で前に進んでいる。

ワカサギ釣りは、そのうちでいい。


まずは――

誰も怪我をしない新兵器を完成させること。


中村玲、週末ヒロイン。

彼女の戦いは、まだ続いている。

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