「休め」と言われたら、アラームが鳴り止まなくなった件
中村玲は、その言葉を聞いた瞬間、
脳内で警報が鳴った。
「……休め?」
静かな会議室。
ホワイトボードには「稼働率」「改善」「現場反映」の文字。
その中央で、上長が穏やかに言った。
「中村さん、今週末は休んでください」
一瞬、空気が止まる。
「……確認なんですが」
玲は慎重に切り出した。
「“休め”というのは、
“現場に行かなくていい”という意味で——」
「はい」
「“試験を回さなくていい”という意味で——」
「はい」
「“トラブル対応をしなくていい”という意味で——」
「全部、はいです」
その瞬間、
玲の中で何かが崩れた。
「……何か、起きますよね?」
「起きません」
「いや、起きます」
「起きません」
「絶対、起きます」
論理ではなく、経験則だった。
その日の夜。
玲は自宅で、落ち着かずに立っていた。
スマホを見る。
通知ゼロ。
「……おかしい」
蒼牙2000・改からの遠隔モニタ通知も来ない。
「静かすぎる……」
唯奈からLINE。
〈玲さん、今日は休みだっぺ〉
「それが怖いんです」
即レスだった。
〈怖いって何が〉
「何も起きてないことが」
数分後、常陸太田市。
唯奈は蒼牙2000・改に聞いた。
「玲さん、なんかおかしくね?」
《診断:
“休養指示”による
不安定化が確認されます》
「人って、休めって言われると不安になるんだなぁ」
《一定数、います》
その頃、玲は部屋で一人、
無意識にノートを開いていた。
「……もし今、異常が起きたら」
ペンが走る。
「私が休んでいる間に——」
「ダメだ!」
自分で自分にツッコミを入れる。
「今日は休み!
責任は、休むこと!」
だが五分後。
「……でも一応、確認だけ」
PCを開いた瞬間、
背後から声がした。
「何してはるんどす?」
振り返ると、
綾乃が腕を組んで立っていた。
「休め言われた人の顔やないえ」
「確認です!
確認は休みでも——」
「それを仕事言うんどす」
間髪入れずに美月も入ってくる。
「玲、休み言われて仕事したら
それもう反逆やで?」
「反逆!?」
「上司の善意への反逆や」
唯奈も加勢する。
「玲さん、
今やらなあかん仕事はな」
「……?」
「何もしない練習だっぺ」
蒼牙2000・改が淡々と補足する。
《休養はスキルです》
「機械に説教されてる……」
玲はソファに座り、
深く息を吐いた。
「……怖いんです」
「何が?」
「休んでる間に、
現場が私を必要としなくなったら」
一瞬、静かになる。
唯奈が言った。
「それ、逆だっぺ」
「?」
「必要だから、
休めって言われてんだ」
蒼牙2000・改が続ける。
《壊れるまで使うのは
兵器ではありません》
「誰が兵器ですか……」
美月が笑う。
「でもな、玲。
休めるうちに休め。
それもプロや」
綾乃が優しく締める。
「“何もしない”時間があるから、
次に“全力”が出せるんどす」
その夜。
玲はアラームをすべて切り、
久しぶりに何も考えず目を閉じた。
……三分後。
「……大丈夫かな?」
スマホを取ろうとして、
手を止める。
「今日は、休み」
そう言い聞かせて、
もう一度目を閉じた。
——休めと言われて、
逆に不安になる。
それは責任を知った証拠で、
信頼されている証でもあった。
そして中村玲は、
この日ようやく知る。
休むのにも、勇気がいる。




