理屈が完成した瞬間、責任は全力疾走してきた
中村玲が「これは、ちゃんと動きます」と言った瞬間、
会議室の空気が一段階、固くなった。
それまでの雰囲気はこうだ。
「週末ヒロイン活動、お疲れさま!」
「地方イベントでのデータ、面白いね」
「雨の中で壊れなかったのは評価高いよ」
——完全に“ゆる会議”。
だが、玲がホワイトボードに
振動制御の最終式を書き切った瞬間、
偉い人たちの目の色が変わった。
「……つまり」
部長が眼鏡を押し上げる。
「これは“実用段階”という理解でいいのかな?」
玲は一瞬、脳内で言葉を探した。
「はい」か「いや、まだ」で人生が分岐するやつだ。
「……はい」
言ってしまった。
その瞬間、
週末ヒロインという言葉が、
会議室から物理的に消えた。
「では、正式な責任の所在を——」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
玲は慌てて立ち上がる。
「これはあくまで、現場検証というか、
その……イベント的な……」
「イベントで動いた兵器は、
“動いた兵器”です」
冷静な声で、さらに偉い人が追撃する。
「事故が起きた場合、
誰が説明責任を負うのか。
誰が設計責任者なのか」
玲の背中を、
責任という名のトラックが
フルスピードで突っ込んできた。
その頃、常陸太田市。
畑の真ん中で、唯奈は蒼牙2000・改にまたがっていた。
「なーんかさ」
畑の風を感じながら、唯奈は言う。
「玲さん、今ごろ追い詰められてる気がすんだよね」
《解析結果:的中率87%》
蒼牙2000・改は淡々と答える。
《理屈が完成した場合、
作成者には説明義務と責任が付随します》
「やっぱ重たい話じゃん」
《はい。非常に》
「玲さん、顔引きつってそうだっぺな」
《笑顔を維持する確率、現在18%》
一方その頃、
戦隊ヒロイン拠点では美月が爆笑していた。
「なにそれ!
理屈通したら責任がついてきた?
当たり前やん!」
綾乃は紅茶を一口飲み、静かに言う。
「せやけどな、美月。
そこを逃げたら、
一生“途中で放り出した人”になりますえ」
「……うわ、急に真面目」
「真面目も仕事ですさかい」
玲は頭を抱えていた。
「私、週末ヒロインでいたかっただけなんです……」
「ほな聞くけど」
美月が肩を叩く。
「誰かに任せて、
事故起きたら後悔せえへんの?」
玲は黙った。
その沈黙を破ったのは、唯奈だった。
「玲さんが決めたらいいっぺ」
モニター越しの唯奈は、いつも通り笑っている。
「畑でも現場でも、
うちはついてくから」
《補足:唯奈さんの同意は、
心理的支援として有効です》
「お前、空気読むな」
《仕様です》
玲は深く息を吸い、
そして笑った。
「……分かりました」
週末ヒロインの顔で、
でも逃げない目で。
「責任、取ります。
ただし——現場に立ち続けます」
部屋の空気が、少しだけ緩んだ。
理屈が追いついたら、
責任は確かに追いかけてきた。
でも——
逃げなければ、
それもまたヒロインの仕事だった。
蒼牙2000・改が、静かに言う。
《では次のフェーズへ移行します》
「次ってなに?」
《“覚悟”です》
「……重たいな」
《はい。しかし》
少し間を置いて。
《似合っています》
——週末ヒロイン編、
笑ってる場合じゃないけど、
笑いながら進むしかない。
次の現場は、もう逃げ場がない。




