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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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455/470

半拍遅れのヒロインは、なぜ一番拍手を集めたのか

埼玉県戸田市。

荒川沿いに開けたこの街は、都心に近いのにどこか余白があり、週末になると家族連れと自転車と、そしてボートレース場の独特な熱気が同居する、不思議な場所だ。


水面を切り裂くエンジン音。

場外に漂うソース焼きそばとフライドポテトの匂い。

そして今日は、その一角で戦隊ヒロインの地域イベントが開催されていた。


ステージ袖で、中村玲は静かに深呼吸していた。


(……まだ、全然仕上がっていない)


ダンスは振りを覚えるだけで精一杯。

トークは原稿を読まないと成立しない。

笑顔も、意識しないとすぐ引きつる。


隣でストレッチしている唯奈が、ちらっと覗き込む。


「大丈夫だっぺか?」


「理論上は大丈夫です」


「その“理論上”、だいたい爆発するやつだっぺ」


「爆発はしていません」


「した」


「してません」


「した」


このやり取りも、もはや名物である。


ステージが始まった。


最初に出てきたのは、場慣れしたヒロインたち。

会場の空気を一瞬で掴み、煽り、笑わせる。


歓声。

拍手。

コール。


そして――玲の出番。


スポットライトが当たった瞬間、

玲の頭の中は、真っ白になった。


(あ、立ち位置……違う)


一歩ズレる。

ダンスの入りが半拍遅れる。

ターンでバランスを崩し、慌てて踏みとどまる。


完璧とは、程遠い。


トークパート。


用意していたフレーズを言おうとして、

噛んだ。


「えー……あの……私は……その……」


会場が、ざわつく。


玲は、一瞬、俯いた。


(失敗だ)


そのときだった。


前列の小学生が、叫んだ。


「がんばれー!」


それに続くように、

「大丈夫だよー!」

「かわいいぞー!」


玲は、はっと顔を上げた。


(……減点されてない?)


唯奈が横から、小声で言う。


「ほら見ろ。

 完璧じゃなくても、刺さる時は刺さるんだっぺ」


「被験者……いや唯奈さん」


「今、被験者って言ったっぺ?」


「言ってません」


「言った」


「言ってません」


「言った」


玲は、ふっと肩の力を抜いた。


原稿を畳み、マイクを握り直す。


「……すみません。

 正直に言います」


会場が静まる。


「私は、ダンスもトークも、

 ここにいる皆さんが思っているより、ずっと下手です」


ざわっ、とするが、空気は悪くない。


「でも、

 現場に出て、

 皆さんの声を直接聞いて、

 それを次の開発に持ち帰るのが、私の仕事です」


少しずつ、声が強くなる。


「完璧なヒロインじゃありません。

 でも、完璧じゃないからこそ、

 現場で拾えるものがあると思っています!」


一拍置いて、深く頭を下げた。


次の瞬間、

拍手が起きた。


理屈では説明できない。

だが確かに、何かが刺さった音だった。


ステージ後。


控室で、玲はタオルを首にかけ、へたり込んだ。


「……全然、うまくできませんでした」


唯奈が、ボートレース場の方を指さす。


「あそこ見ろっぺ」


水面では、ボートがスタートで出遅れ、

必死に巻き返している。


「最初から全部完璧なやつなんて、

 現場にはいねぇ」


すみれコーチが、にやっと笑う。


「むしろね、

 ちょっと足りないくらいの方が、

 応援したくなるのよ」


玲は、静かに頷いた。


(……完璧じゃないのに、刺さる)


それは、研究室では一度も出てこなかった評価軸だった。


帰りの車中。


玲は、ノートに走り書きする。


・失敗しても離脱しない観客

・未完成でも応援が生まれる現象

・感情フィードバックの即時性


そして、小さく書き添えた。


――週末ヒロイン適性、

 理論外だが、確実に存在する。


唯奈が横から覗き込む。


「それ、次の兵器に使う気か?」


「……はい」


「ろくな兵器にならなそうだっぺ」


「否定できません」


戸田の夜風は、

荒川の匂いとボートエンジンの余韻を運びながら、

また一人、机上に戻れない技術者を作っていった。


完璧じゃない。

でも、なぜか刺さる。


それが、

週末ヒロインという現象の、厄介で面白い核心だった。

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