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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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454/468

地方・雨・トラブル完全装備――週末ヒロインは止まれない

太田市のすみれコーチの実家工場で、太田焼きそばを巡る人類史上どうでもいいが妙に白熱した栄養管理論争が一段落した翌週。

蒼牙2000・改は満足げにエンジンを低く唸らせ、唯奈は焼きそばのソースの匂いをまだ服に残したまま、新橋のヒロ室・地下駐車場に居た。


「焼きそばは完全栄養食だっぺよ」


「炭水化物過多です」


「蒼牙2000・改まで言うなっぺ!」


蒼牙2000・改は、丁寧語で淡々と追撃する。


「唯奈さん、太田焼きそばは“心の栄養”としては非常に優秀ですが、

 任務前の摂取としては少々――」


「お前、誰に教育された?」


「……明日香さんでしょうか」


すみれコーチが、工具を置いて笑った。


「はいはい、その話はここまで。

 次、週末イベント入ってるから。玲も同行ね」


その瞬間、中村玲の肩がぴくりと跳ねた。


地方イベント。

屋外。

しかも天気予報は、雨。


玲は、移動車の中で天気アプリを三つ同時に開き、気圧配置と降雨量予測を睨みながら、ぶつぶつと独り言を呟いていた。


「降水確率85%、地面の摩擦係数低下、音響機材のトラブル率……」


「被験者……いや唯奈さん」


「今、被験者って言ったっぺ?」


「言ってません」


「言った」


「言ってません」


「言った」


このやり取りも、もはやイベント前の準備運動である。


会場に着いた途端、嫌な予感は現実になった。

雨は本降り、ステージ脇はぬかるみ、スピーカーは片側だけ沈黙。


「マイク死にました!」


「ケーブル濡れてます!」


玲の脳内で、警告音が鳴り響く。


(これは……理論上は中止判断……)


だが、唯奈は迷いなく前に出た。


「聞こえなくてもやるっぺ!」


腹の底から、畑で親父に呼ばれたときと同じ声量で叫ぶ。


「戦隊ヒロインは!

 雨でも!

 止まんねぇっぺ!!」


観客席の子どもたちが一斉に手を振り、拍手が起こる。


玲は、その光景を見て固まった。


(……数値上、説明がつかない)


だが、体は勝手に動いた。


マイクなしで声を張り、

濡れたステージを気にせず立ち位置を調整し、

失敗しながら、続ける。


転びそうになる。

セリフを噛む。

ダンスのテンポもズレる。


理論的には“失敗の連続”。


なのに、観客は笑っている。

声援は増えている。


「理系のお姉ちゃんがんばれー!」


玲は、息を切らしながら思った。


(机上では、これは全部“減点”だ……)


終盤、マイクが完全に沈黙した。


その瞬間、玲は決めた。


「……私は研究員です!」


雨音に負けない声で叫ぶ。


「でも!

 現場で動かない理論は、ただの紙です!」


言葉は荒い。

論文なら即リジェクト。


だが、唯奈が横で頷いた。


「それでいいっぺ。

 現場はな、まず“やる”んだ」


終演後、控室でびしょ濡れの玲はタオルをかぶり、呆然としていた。


「……机上では、

 今日の判断は全部“間違い”です」


すみれコーチが、いつもの軽い口調で言う。


「でも、正解だったでしょ?」


唯奈が焼きそばの話に戻す。


「だから言ったっぺ。

 現場はソース多めが正解なんだ」


「それは関係ありません」


「関係ある」


「ありません」


「ある」


蒼牙2000・改が静かにまとめる。


「結論として、

 “現場に出た技術者は、机上には完全には戻れない”

 ということでよろしいでしょうか」


玲は、小さく笑った。


「……否定できません」


雨は止んでいなかったが、

玲の中で何かが確実に切り替わっていた。


――週末ヒロインは、

地方と雨とトラブル込みで完成する。


そして、

一度現場を知った技術者は、もう純粋な研究室要員ではいられない。


太田焼きそばのソースの匂いと一緒に、

玲はその事実を、しっかりと持ち帰るのだった。

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