公道最速、畑最強。――蒼牙2000・改、戦場を耕す
その日、戦隊ヒロインプロジェクトに緊急出動命令が下った。
相手は因縁の敵、ジェネラス・リンク。
市街地と工業地帯の境界、未舗装路と高架道路が複雑に入り組んだエリアで、補給拠点を構築しようとしているという。
「地形が最悪どす……」
参謀役の綾乃が地図を睨む。
美月は腕を組み、彩香は軽くストレッチ。
麗奈は既にヘルメットを抱え、あおいは上空からの侵入ルートを確認していた。
その時だった。
「来たっぺよ」
低いエンジン音。
だが、どこか“普通”ではない。
煙を上げながら現れたのは――
黒と銀を基調にした異様なシルエットのトラクター。
「……え?」
「……トラクター?」
「……畑、近くにあったやろか?」
全員が固まる中、運転席から唯奈がひょいと顔を出す。
「紹介すっぺ。
オラの相棒、蒼牙2000・改だ」
トラクターが、喋った。
「皆さま、はじめまして。
ドリームトラクター《蒼牙2000・改》です。
本日は戦闘支援に参りました」
「……喋った!?」
美月が即座にツッコむ。
彩香は思わず目をこすり、あおいは無言で二度見。
綾乃だけが冷静に言った。
「……性能、少し確認させていただいてもよろしおす?」
「もちろんです。
未舗装路走破、段差対応、高速移動、物資牽引。
ついでに雑談も可能です」
「雑談は要らんわ!」
即座に美月が切る。
だが、戦闘が始まると空気は一変した。
ジェネラス・リンクの戦闘員が散開。
通常車両では追えないルートへ逃走する。
「逃げられる!」
その瞬間、唯奈がアクセルを踏み込んだ。
「蒼牙、行くっぺ!」
「了解しました、唯奈さん。
少々揺れますが、安全ですのでご安心ください」
トラクターとは思えぬ加速。
未舗装路をものともせず突っ切り、段差を跳ね、狭い農道を一気に制圧。
「な、何この安定感!?」
「速いのに揺れない!?」
「畑用やのに、これどすえ?」
驚くヒロインたちをよそに、蒼牙2000・改は淡々としている。
「美月さん、右手前に敵影三。
彩香さん、そちらは滑りやすいのでご注意を」
「指示まで出すんかい!」
だが、その指示は的確だった。
包囲、牽制、捕縛。
戦況は一気にこちらに傾く。
そして、麗奈が近づいた時。
「麗奈さん」
「……な、なによ」
「以前は大変でしたね。
ですが、ご無事で何よりです」
場が一瞬、静まる。
「……あんた、恨み言の一つも言わないの?」
「私は機械ですので、感情的な判断はいたしません。
ただし――」
蒼牙の声が、わずかに低くなる。
「道路交通法は守ってください。
安全運転が最優先です」
「うっさいわね!」
麗奈が顔を赤くし、周囲は吹き出した。
戦闘は完全勝利。
ジェネラス・リンクの拠点は制圧され、被害は最小限。
「……これは、思いのほかの戦力どすなぁ」
綾乃が静かに言う。
「正直な話、トラクター言うて聞いた時は、どないや思たけどな……」
「いや、普通に強い」
「むしろ頼れる」
あおいが頷き、彩香も納得顔。
唯奈は照れくさそうに頭をかく。
「オラは、いつも通りやっただけだっぺ」
その横で、蒼牙2000・改が静かに告げる。
「皆さま、本日はお疲れさまでした。
なお、私はまだ“序の口”です」
「え?」
全員が一斉にすみれコーチを見る。
すみれコーチはニヤリと笑った。
「当然でしょ。
まだ改良途中なんだから。
次はもっとすごくするよ」
「ちょっと待って!?」
「これ以上!?」
ツッコミの嵐の中、
唯奈は蒼牙2000・改のハンドルに手を置いた。
「なぁ蒼牙。
これからも一緒にやるっぺよ」
「もちろんです、唯奈さん。
畑も、戦場も――お任せください」
こうして、
戦隊ヒロイン史上、最も農業的で、最も頼れる新戦力が誕生したのだった。
――次に耕されるのは、どの戦場か。




