しゃべる最速農機、首都高を耕す――蒼牙2000、ヒロ室へ行く
常陸太田市の山あい。
朝霧の残る畑のど真ん中で、山口唯奈は腕を組んで立っていた。
その前に鎮座するのは、
もはや「トラクター」という言葉では説明がつかない存在――
ドリームトラクター《蒼牙2000》。
「じゃあ、行くべ。コーチと明日香さん送ってくっぺ」
唯奈がそう言うと、蒼牙2000は一拍置いてから、丁寧すぎる口調で答えた。
「了解しました、唯奈さん。本日は晴天。道路状況も良好です。安全運転で参りましょう」
すみれコーチと稲生明日香は顔を見合わせた。
「……トラクターに“参りましょう”って言われる日が来るとはね」
「しかも声が落ち着きすぎてて腹立つくらいですね」
エンジン始動。
低く、しかし明らかに農機の音ではない咆哮。
蒼牙2000は山道を、SUV顔負けの安定感で滑るように下っていく。
「すっげ……」
唯奈は思わず声を漏らした。
「揺れねぇし、坂でも息切れしねぇ。これほんとにトラクターか?」
「はい。私は“公道最速トラクター”です」
蒼牙2000は淡々と言う。
「そこら辺のスポーツカーには、理論上は負けません」
「理論上って言うな!」とすみれコーチ。
「その理論、だいたい爆発するのよ!」
しかし蒼牙2000は涼しい。
「本日は爆発要素は搭載しておりません。安心してください」
そのまま北関東自動車道へ――
トラクターが。
料金所の係員が二度見どころか三度見するのを横目に、
蒼牙2000は何事もなかったかのように合流した。
それ以来だった。
唯奈と蒼牙2000は、完全に相棒になった。
畑仕事をしながら、他愛もない会話をする。
「蒼牙、今日の土、ちょっと重くねぇか?」
「昨日の雨量を考慮すると、確かに含水率が高めです。少し速度を落としましょう」
「お前、ほんと気が利くな……人間だったらモテたべ」
そんなやりとりを聞いていた近所の農家のおじさんが、
腕を組んで唸った。
「……喋る馬ぁ聞いだごどぁあるげどよぉ……
トラクターが喋っぺぇごどは……
んだっぺか? 夢だっぺか?」
※解読不能な茨城弁である。
だが蒼牙2000は、誰に対しても礼儀正しい。
「お手伝いできることがあれば、お声がけください」
「エンジン音、少し下げますね」
その誠実すぎる対応に、
いつの間にか蒼牙2000は地域の人気者になっていた。
「唯奈ちゃん、そのトラクター貸してくんちぇ」
「今日は蒼牙2000来てくれっから、仕事早ぇわ」
完全に受け入れられている。
ある日。
唯奈は、いつものように新橋のヒロ室へ向かった。
もちろん――
蒼牙2000で。
地下駐車場に入ってきた瞬間、
ヒロインたちがざわついた。
「なにあれ!?」
「……トラクター?」
「え、喋ってる……?」
蒼牙2000は一礼するようにライトを点滅。
「皆さま、初めまして。蒼牙2000と申します」
「かっこいい……!」
「なんか人格まで完成してない!?」
蒼牙2000は明らかに“ご満悦”だった。
さらに。
陽菜とみのりが目を輝かせて言った。
「唯奈ちゃん、乗せて〜!」
「首都高、行ってみたい!」
そのまま首都高ドライブ。
みのりはシートに身を沈め、感嘆の声を上げる。
「……トラクターとは思えない。
乗り心地いいし、安定感凄い。
これ戦闘任務でも絶対戦力になるよ!」
「ありがとうございます」
蒼牙2000は即答。
「戦場走行も想定済みです」
唯奈はハンドルを握りながら、ニヤッとした。
「なぁ蒼牙……
オラたち、ちょっと面白ぇことになってきたな」
「はい、唯奈さん。
私もそう感じています」
夕焼けに染まる首都高を走る、
魔法少女と公道最速トラクター。
――蒼牙2000は、
戦隊ヒロインプロジェクトの新戦力となるのか?
答えはまだ分からない。
だが一つだけ確かなのは、
またロクでもない事件が起きるという予感だけだった。




